AKB結成10周年—音楽市場の「地殻変動」を乗り越えられるか

文化

本拠地である東京・秋葉原のAKB48劇場が2015年12月開業10周年を迎えた。10年間抜群の人気を維持してきたAKBだが、音楽市場の「地殻変動」の中で、さまざまな課題に直面している。

AKB48のCD売り上げの勢いが減速

2015年度下半期、NHKの朝はAKB48の楽曲から始まる。朝の連続テレビ小説の主題歌として、同グループの楽曲『365日の紙飛行機』が選ばれたからだ。同番組が平均視聴率25%を超える人気番組となって話題を集める中、同曲がカップリングとして発売されたCDシングル『唇にBe My Baby』が2015年12月8日に発売された。

本作で、AKB48グループは29作品連続オリコン1位を獲得した他、AKB48のシングル通算売り上げは3600万枚を超えて歴代1位(これまでの1位はB’zだった)となる他、作詞者の秋元康氏の累計販売枚数も1億枚を超えるなど、新たな話題作りに貢献した。

その一方で、同作は発売初動での売り上げが81万枚であった。通常で考えれば十分に多い数字であるが、実はAKB48としては過去5年間で最低の売上枚数である。

もちろん、今の日本で初動80万枚を超える販売力を持つのはAKB48グループのみであるし、これ以前の5年間に出したCDシングルの全てが初動で百万枚を超えたという事実は、同グループが国内最大のCDセラーであることを証明している。

しかし、これまで5年間キープした百万枚を割り込んだことで、これまでとは違った何らかの異変が明らかになりつつあるのではないだろうか? 奇しくも10周年を迎えるAKB48グループを通して、日本の音楽市場にいま起きつつある「地殻変動」を分析したい。

握手会は「ファンサービス」か「キャバクラか」

「なぜAKB48だけが100万枚以上売ることができるのか?」その問いに対して、多くの人が「あれはCDではない。握手券を売っているからだ」と答える。握手券とは、CDに付属しているもので、それを持って握手会イベントに行くと、自分の好きなメンバーと握手を1回することができる。通常、握手券1枚で10秒程度とされており、同時に10枚でも100枚でも出すことで、その時間を延長することが可能だ。したがって、少しでも長い時間メンバーと話したいと思うファンは何十枚もCDを購入することになる。この時間課金のようなシステムを指して、「キャバクラみたいなビジネス」と言われることもある。

一方で、CDに握手券をつけているのは何もAKB48グループに限ったことではない。他のアイドルグループでも、握手券はもちろん、一緒に写真を撮ったり、ハグをしたりといったこともやっている。しかし、100万枚売ることができるのはAKB48グループだけである。

AKB48グループは、単に握手会をしているだけではなく、総選挙やグループ間の異動(“組閣”と呼んでいる)、恋愛禁止ルールなどといったさまざまな話題作りを行い、つねにファンの歓心を得るような活動を行っている。それらの活動を通じて、握手会に頻繁に足を運ぶ熱心なファンを作り出し、結果として5年間にわたってCDが100万枚以上売れ続けるという現象を生み出してきた。

ファン層の「高齢化」と話題作りの「マンネリ化」

一方で、AKB48も結成から10周年を迎え、最初からずっとファンを続けている、いわゆる「最古参」と呼ばれるファンたちも10歳年を取った。それらの最古参・古参ファンの多くはAKB48から派生グループのNMB48やHKT48などに流れていると見られているが、一部は加齢とともに若い女の子に対する興味が薄れていった、という見方がある。

また、総選挙や組閣、恋愛禁止ルールなどこれまでのアイドルグループでは見られなかったさまざまな話題作りも、最初は良かったが、何度も繰り返すことでマンネリ化してきているという側面もある。

NHKの連続テレビ小説の主題歌(しかも高視聴率の人気番組)であるにもかかわらず、100万枚を超えることができない結果となったのは、それら複合的な理由が考えられる。

失敗に終わったCD楽曲データの共有阻止の試み

AKB48がデビューする少し前の2002年に「CCCD騒動」があった。CCCDとは「コピーコントロールCD」のことで、PCによる楽曲データの読み取り(リッピング)が出来ないよう、音楽プレイヤーでは読み取れず、PCだけが読み取ってしまうエラーコードを意図的に織り込むことによって、音楽プレイヤーだけでの再生ができるように工夫したものであった。

CCCDは本来の「CD」の規格に意図的に違反したものであった。本来の規格に合わないにもかかわらず大手レーベルが導入・普及を図ろうとした理由は、当時、一部のユーザがCDをリッピングして作成した楽曲データを仲間内やインターネットを通じて無制限に共有することで、CDの売り上げが落ちることを懸念してのことであった。

実際に、楽曲データのダウンロードデータは違法化され、罰則も与えられるものとなったが、個人間のやり取りまでは禁止することが出来ず、特に、お金のない若者層をターゲットとした音楽レーベルにとっては、CDのリッピングとそれに伴う楽曲データの共有はなんとしても止めるべき死活問題と捉えられていたのだ。

しかし、CCCDは規格外であるため、そのディスクは普通の音楽プレイヤーでも再生できず異常を起こすことがあったばかりか、逆にPCでは回避策がすぐに生み出されるなど、本末転倒な事態が起こった。結果として、CCCDはすぐに廃止されてしまった。

音楽配信サービス拡大を踏まえた「ライブ系ビジネスモデル」

CCCDが物議を醸していたまさにその時期、AppleがiPodとiTunesを発売し、音楽のダウンロード販売を本格的に開始した。ソニーも2004年にダウンロード配信の「mora」を開始している。果たして、これらのダウンロード販売がCD・音楽DVDなどのパッケージ商品の売上減少を補うだけの規模になったのだろうか?

結果としては、図2が示すように、ダウンロード販売による売り上げは限定的で、パッケージ商品の販売減少を補うには至っていない。

さらに、いまやこれらダウンロード販売だけではなく、「Spotify」のような定額制のアプリも出てきている。これらは毎月定額を支払うことで、音楽が聴き放題になるというサービスである。

日本では「LINE MUSIC」、「AWA」などのサービスが展開されている。これらはダウンロードとは違い、月額フィーを権利者で分け合う構造であることから、ダウンロード販売に比べて、レーベルによっては受け取る金額がさらに小さくなる。

このように、技術の発展によって、音楽ビジネスは変容してきた。AKB48の通ってきた10年は、まさにこの技術の変動時期であり、同グループはこれを敏感に捉えて、握手会のようなライブ系のビジネスモデルにうまく転換してきた結果、CD販売においては5年にわたり圧倒的な強者として生き残っていると言える。

映画館で「ライブ」コンサート―「ライブ・ビューイング」

ライブビジネスの弱点は「キャパシティの上限が売り上げの上限」であることだった。AKB48は握手券を売ることで、一人ひとりの単価を向上させ、この上限をまず持ち上げた。また、スマートフォンを使った通販も一般的となった。これらはライブ会場においても積極的に活用され、ライブ会場における物販についても、当日の在庫量を超えた販売をすることが可能になっている。

さらに、ある技術革新によって、今度はキャパシティそのものの上限が拡大しつつある。それが「ライブ・ビューイング」だ。

ここ数年で映画業界は「デジタル映像配信技術」の向上・普及に努めてきた。いまや、多くの新しい映画館では、デジタル映写機をそなえ、ほぼリアルタイムに近い形でさまざまな映像をインターネットや通信衛星を通じて、配信することが可能になった。

これによって、「さいたまスーパーアリーナで行われているライブを福岡でリアルタイムで見る」ということが物理的に可能になり、実際に、ライブ・ビューイングイベントは年々増えている。

従来は、会場の収容人数の上限が集客の上限であったが、同時中継配信を行うことで、全国の映画館を「キャパシティ」として使うことができるようになったのだ。

「さいたまスーパーアリーナで行われているライブを福岡で見ることが出来る」と書いたが、ライブ・ビューイングで満足が得られるのであれば、逆も可能だ。つまり、ライブそのものは地方で開催し、その映像を大都市圏に配信して、現地だけでは到底不可能な大人数を動員し、収益を上げる、という方法だ。

AKB48に立ちはだかる「2016年問題」

折しも「2016年問題」が持ち上がっている。2020年の東京オリンピックに向けて、大きなライブ会場が次々に建て替え・閉鎖となり、キャパシティが激減することが指摘されている。

東京で開催できないイベントを地方に誘致して、その映像を全国の大都市圏に配信することは今後より大きなビジネスになると見込まれている。

音楽配信ビジネスを踏まえて、ライブビジネスに移行したAKB48グループであるが、この2016年問題を「ライブ・ビューイング」で乗り越えることはできない。なぜなら、遠く離れた映画館では、「メンバーと実際に握手する」ことはできないからだ。少なくとも現在の技術では。

ファン層の高齢化や、ネタのマンネリ化、そして、2016年問題といったさまざまな課題を、AKB48グループがどう乗り切っていくのか。これからの新しい10年の動きに期待される。

(2015年12月16日 記)

タイトル写真=2015年6月、第7回AKB48選抜総選挙の選抜メンバーたち/時事
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