史上初のストライキから10年余り:プロ野球「改革」は進んだのか?
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再編問題に不祥事、経営不振:激震走った2004年の球界
11年前の2004年はプロ野球に関する問題が様々に噴出した年だった。
近鉄球団とオリックス球団の合併をきっかけに、10球団による「1リーグ制への移行」を画策する球団が現れ、それに反対して「2リーグ12球団制の維持」を主張する選手会が、プロ野球史上初のストライキを決行。
この問題は、東北楽天イーグルスの新規参加が認められ、選手会(や多くのファン)の望む形で決着を見た。が、他にも当時存在したドラフトの「自由獲得枠」を利用して獲得しようとした大学生選手に対して、巨人、阪神、横浜(現DeNA)の3球団が「栄養費」の名目でドラフト前に金品を渡していたことが発覚。3球団のオーナーや球団社長が辞任した。
さらに西武鉄道グループの不正経理が発覚して、西武球団オーナーが辞任。ダイエー本社の経営不振から、福岡ダイエーホークスがソフトバンクに売却されるなど、大揺れに揺れたプロ野球は、NPB(プロ野球機構)と選手会が「プロ野球構造改革協議会」を設け、プロ野球界の「改革」に手を付けることになった。
交流戦実施でパ・リーグに注目集まる
それから丸10年。では、「改革」は、どのように進んだのか?
ファンの目線で考えるなら、まずセ・パ交流戦が行われるようになったことが最も具体的な出来事と言えるだろう。それによって巨人の絶大な人気に支えられているセ・リーグだけでなく、パ・リーグ各球団にも多くのファンの注目が集まるようになり、さらに、札幌、仙台、千葉、福岡と全国に広がったパ球団は、地域に密着したビジネスを展開。ダルビッシュ、大谷翔平(日ハム)を初めとする人気選手の獲得と活躍もあり、セ・パの人気の格差は、目に見えて接近した。
他にも、2004年当時の選手会は、次のような6項目をNPB側に要求していた。
- MLB(アメリカ・メジャーリーグ)が導入しているLuxury Tax(贅沢税=選手の年俸総額が定められた額を超えている場合、その球団から「税金」を徴収し、経営の脆弱な球団に回す制度)の採用。
- 高額年俸選手に対する年俸減額制限の緩和。
- プロ野球ドラフトの完全ウェーバー方式化。
- フリーエージェント選手移籍補償金の廃止。
- 新規参入球団の加盟料(60億円)譲渡による参加料(30億円)の見直し。
- コミッショナーによるテレビ放映権の一括管理。
ドラフト制見直しなど、一定の「改革」進む
この中でファンにとって関心の高い問題は、3のドラフト制度の「改革」だろう。現在プロ野球のドラフト制度は、1巡目が各球団の獲得希望選手を指名し、2巡目以降がウェーバー制(交流戦の合計勝ち数で負けたリーグの最下位球団から順に選手を指名)という方式をとるようになった。
この方式は、かなりリーズナブルな「改革」と言える。完全ウェーバー制にした場合、かつての江川卓投手のように「怪物」と呼ばれるほどの実力を持った選手がアマ球界に出現した時に(近い将来の清宮選手がそのケースに当たるか?)、ペナントレース終盤になって、わざと試合に負けて最下位になり、ドラフトの「1番指名権」の獲得を狙う球団が出る――という事態が起こる可能性も否定できない。そのようなナンセンスを回避して、1巡目だけ複数球団指名選手を抽選にするのは理に適った「改革」と言えよう。
また他の選手会の要求も、①の贅沢税の導入と、⑥の放映権一括管理の問題を除き、NPBも選手会も、ほぼ満足できる譲歩のうえに一定の「改革」が進んだと言える。
プロ野球再編問題とその後の動き
2004年6月 | 大阪近鉄バファローズの、オリックス球団への売却構想が表面化 |
ライブドアが近鉄球団の買収申し入れ。近鉄、オリックス両球団は拒否 | |
7月 | 一部球団オーナーの発言から「1リーグ10球団化」構想がとりざたに |
8月 | 両球団が合併基本合意書に調印 |
株主やプロ野球選手会が合併差し止めを求める法廷闘争 | |
9月 | オーナー会議が両球団の合併承認。チーム名は「オリックス・バファローズ」に。 |
合併の凍結求める選手会と球団側、NPBが団体交渉 | |
18日、19日の公式戦ストライキ | |
楽天が新球団の加盟申請を表明 | |
11月 | 楽天参入が正式承認。「東北楽天ゴールデンイーグルス」が発足。 |
2005年 | 初のセ・パ交流戦を実施 |
アジアシリーズが初開催。日本代表の千葉ロッテが優勝 | |
独立リーグの「四国アイランドリーグ」が発足 | |
2006年 | ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、プロ選手で構成された日本代表チームが優勝 |
2007年 | ポストシーズンの「クライマックスシリーズ」を導入 |
2009年 | 日本代表がWBCの2連覇達成 |
2011年 | 日本代表(略称・侍ジャパン)の常設化を決定 |
(nippon.com編集部作成)
WBCの日本連覇で、野球人気の低落に歯止めも
贅沢税の問題は、かつては高い人気を背景に潤沢な資金を駆使できる球団が読売ジャイアンツ一球団に限られていたので主要なテーマとなり得たが、最近は楽天(東北)、ソフトバンク(九州)のように、各地域でのファンの熱い後押しに支えられ、巨人並みかそれ以上に潤沢な資金を動かすことのできる親会社も出現し、「反ジャイアンツ連合」的に贅沢税導入を主張する勢力が小さくなってきた。
MLBの場合は、ニューヨーク、ロサンジェルス、シカゴのような人口の密集する大都市を本拠地とする球団に対して、カンザスシティ、タンパベイなど、人口の少ない地域はどうしてもマーケットに大きな差が出ることが、贅沢税導入の根拠にもなっている。が、日本の国土の大きさ(狭さと交通網の発達)を考えれば、贅沢税導入の根拠は小さいと言わざるを得ない。
こうして昨今の日本のプロ野球を俯瞰してみると、11年には「清武の乱」と呼ばれる巨人内部の騒動が起こり、13年には「飛ぶボール問題」が発覚するなど、ファンの信頼を失いかける事件が起きたりしたものの、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での2度の優勝(06、09年)もあり、04年の「大騒動」以降、順調な「運営」を見せているようにも思える。
観客動員数増も、「発展」の道は見通せず
しかし、この状態を「日本プロ野球の発展」と言えるかどうかは、大いに疑問のあるところだ。そもそも「日本プロ野球の発展」とは、どういう状態を指すのか? その疑問に答えられる球界関係者は(コミッショナーやオーナーのなかに)存在するのか?
私がプロ野球の取材を開始した1974年、MLB(アメリカ・メジャーリーグ)は、ナショナル・リーグとアメリカン・リーグ各12球団合計24球団が、6球団ずつ東西に分かれてペナントレースとワールド・シリーズを争っていた。それが現在ではチーム数が6球団増え、合計30球団が東、中、西の3地区に分かれて戦うようになった。
一方、日本のプロ野球は第二次大戦後直後の混乱期に少々球団数の増加を見たとはいえ、1958(昭和33)年以来60年近くもの間、セ・パ各6球団、合計12球団の体制が続いている。
同じ時代までMLBをさかのぼるなら、当時はナ・ア各リーグ8球団、合計16球団。そこから球団数はほぼ倍増した。メジャー球団は国外(カナダ)にも誕生し、マイナーリーグは中南米にも進出。選手は中南米以外にも、ヨーロッパやアジアからも集まるようにもなった。
このようなアメリカ野球の変化を「発展」と呼ぶなら、日本のプロ野球の状態は「停滞」と言うべきだろう。いくら観客動員数が増えたと言っても――昭和33年にはセが約530万人、パが約360万人。合計約900万人が、現在は約2300万人で、過去は相当の水増し発表をしていたことを考えると、観客は4倍以上に増えたと言える――、最近10年の頭打ち状態を考えると、これ以上の観客増は望めそうにない。
日本のプロ野球は「親会社の所有物」
しかし、それ以上に問題なのは、日本のプロ野球関係者が(MLBのような)「発展」を考えているかどうか……という点だ。
MLBはベースボールをビジネスと考え、ベースボールを世界中に「発展」させることによって、利益を拡大することを目指している。だが、日本のプロ野球は親会社の所有物として、親会社企業の宣伝、イメージ戦略、販売促進に利用されている。従って、例えば韓国、台湾、中国、オーストラリアへと日本のプロ野球が「発展」する必要が(今のところ)認められず、ましてや現在のプロ野球組織を創設し、リーダーシップを取り続けてきた企業が読売新聞社グループというマスコミ企業であるだけに、日本語以外の地域へのプロ野球の「発展」は不要なこととしか考えられない。
さらに読売新聞に加えて、高校野球は朝日新聞、社会人野球は毎日新聞と、マスコミ企業が日本の野球界のすべてを支配してきた結果、自社の利益を追求するあまり、日本の野球はどうあるべきか、といった意見を展開するスポーツ・ジャーナリズムが存在せず、日本のプロ野球は(高校野球や社会人野球も)親会社(や学校)の利益のために利用されるだけの存在であり続けた。
その結果、優秀な選手の多くがMLBに奪われるという事態に陥っている。とはいえ、今シーズンもパ・リーグはリーグ新記録の観客動員数を記録し、セ・リーグも観客動員数が実数で発表されるようになった05年以降で最多となる観客数を記録した。
しかし、これほど盛況を極めるプロ野球を、将来どのように「発展」させようか……という声は聞こえてこない。ならば2004年の「大騒動」と「改革」とは、いったい何だったのか?
日本野球は本来どうあるべきか……。どう「改革」するべきか……。
それは、マスコミ企業(マスメディア)が野球という事業から手を引き、ジャーナリズムに徹するようになって、初めて誰の目にも見えてくることかもしれない。
バナー写真:日本シリーズを制し、スタンドに向かってポーズを取るソフトバンクナイン=2015年10月29日、神宮球場(時事)