
大忙しの気象庁、天気予報から防災まで
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先駆的だった無人気象観測システム「アメダス」
気象庁は常に「IT社会」の最先端に位置し続けたと言っても過言ではない。以下に、主な観測システムを見てみよう。
まず、どこに雨が降っているかを常時監視できる「気象レーダー」は1950年代半ばに導入され、全国展開された。全世界に先駆けて開発された無人気象観測システム「アメダス(AMeDAS)」は1974年に運用開始となり、全国約1300カ所に配置されている。「アメダス」は当時の電電公社の協力により電話回線でデータ通信が可能になった環境を最初に取り入れたシステムだった。
気象レーダーとアメダスのデータを総合した「降水ナウキャスト」画像(気象庁)
「気象レーダー」と「アメダス」のデータを総合化することにより、今や雨の現況や数時間先までの予測が可能となり可視化もされている。
一方、空に目を転じると、無線機能を備え、上空約30キロメートルまでの気温や気圧、風などを自動的に観測する「ラジオゾンデ」も全国16カ所で毎日飛揚されている。1式数万円のコストを要するが、使い捨てである。
ひまわり8号の画像。台風の左巻きの渦巻きと目がくっきりと見える(気象庁)。
気象衛星「ひまわり」は、台風を初めとした気象の監視に不可欠の手段であり、1977年の初号の打ち上げ以来、8号がこの夏から運用を始めている。約3万5千キロメートルの高度で、地球自転と同じ角速度で飛行しているので常に静止して見える。「ひまわり」の画像から得られる地表面の温度を始め、雲の動きから解析される風情報などは、後述の数値予報と呼ばれる予測モデルにとって不可欠のデータである。
一方、地震の震度や「緊急地震速報」、その数分以内に報じられる津波の有無などの情報の基礎になっているのは、全国各地に展開されている地震計や房総沖などに展張されている海底ケーブルに敷設された地震・津波計のデータだ。それに基づいて気象庁および大阪に設置されている「地震活動等総合監視システム(EPOS)」を用いて、24時間体制で処理し、震源域の決定や津波予報などを行っている。
スーパーコンピューター導入による数値予報
明治以来、1970年代半ばまでは予報官が天気図をにらんで予報するという人の判断による主観的技術であったが、気象学の進歩、観測技術の発展、そして何よりも大量の計算を迅速に行うことができるスーパーコンピューターの出現によって、今やあらゆる天気予報は気象力学の物理法則を定式化した予測モデル(数値予報モデル)で行われている。
図1は全地球を対象にした予測モデルに用いられる格子点網の概念図である。ここに示されている各格子点上に、初期条件として毎日の観測データをインプットすれば、天気予報の基礎となる気温や気圧、風、降水量などが1時間程度の計算で求められる。このモデルは数値シミュレーション技術に他ならず、予報技術はかつての主観的な技術から客観的な技術(数値予報)へと変革を遂げた。
既述の短期予報のほか、台風の進路予報などもすべて、この数値予報モデルに基づいている。
民間の“気象予報士”の誕生
気象庁をめぐる近年の大きな変化は2 つある。まず民間への天気予報の開放だ。細川護煕内閣(1993年~94年)における政府による規制緩和政策の潮流のなかで、民間の参入を促す「気象予報士制度」が誕生した。
現在、気象予報士を抱えて予報サービスなどを行っている民間気象事業者は約60である。気象予報士試験は、第1回の試験以来、この夏の第44回まで、累計17万人を越える受験者があり、1万人弱が合格している。平均の合格率は約6%で、最年少は12歳である。ただ、「気象予報士」の資格で仕事をしている者は、おそらく千人にも到底満たず、受け皿が非常に少ない。今後、地方自治体における防災業務への支援など新たな活躍の場が求められている。
なお、筆者の知る限り、天気予報に対するこのような国家的なライセンスは日本だけであり、米国ではアメリカ気象学会の認定を受けた者が行っている。
防災へのシフトと国際貢献
2つ目の変化は気象サービスの防災へのシフトだ。象徴的な動きは2013年8月の「特別警報」運用開始だ。頻発する大雨などの異常気象や地球温暖化問題などに対応するべく、長年続いた気象警報のスキームを強化した。「特別警報」は大雨警報と同じく警報のカテゴリーであり、「地方気象台」が県内の市町村を対象に行うが、数十年に一度しかないような非常に危険な状況を想定している。最近の気象台は、当該の市町村の防災関係者に直接的な助言を行うなど、首長が行うべき「避難勧告」「避難指示」などの支援を強化している。
最後になったが、気象庁の国際協力に触れたい。気象庁は気象衛星「ひまわり」の運用と国際的な情報交換を始め、「熱帯低気圧地区特別気象センター」、「航空路火山灰情報センター」などの国際的な地域支援センターを多数引き受けており、またスイスのジュネーブにある世界気象機関(WMO)にも職員を派遣している。気象庁のWMOに対する拠出額は全体の約10%でアメリカに次いで世界第2位。さらに、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の温暖化レポートの作成にも参画している。気象を扱うには国際協力が必須なのだ。
(2015年10月 記)
タイトル写真=阿蘇山の噴火について記者会見する気象庁の北川貞之火山課長(2015年9月14日 東京・大手町)/時事