気候変動対策への日本の取り組み

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小林 光 【Profile】

パリでの気候変動条約締約国会議(COP21)の12月開催を前に、日本の温室効果ガス削減目標が決定した。今回目標の具体的な内容と特徴、その背景にある日本固有の社会事情などを、環境政策のエキスパートが解説する。

環境への取り組みをてこに、日本社会の構造変化を

以上のような、比較的に客観的に見た日本国内の動きを離れ、以下では、論者の個人的な意見を述べたい。

日本には、安いエネルギーを多量に使って比較優位を得る産業は存在しない。ものづくりも知識集約型になっていき、新興国との垂直分業をしていかざるを得ない。温暖化対策とは、そのような日本の大きな方向に合致するものである。

既に日本はG7などの場で、2050年時点での温室効果ガス排出量80%削減にコミットしている。幸いにも、日本は京都議定書、という外圧への渋渋な対応を通じて、様々な環境保全的な仕掛けを社会に組み込んだ。この効果はじわじわと発揮されて、日本経済の構造変化を加速していくと思われる。

日本は単に経済や世界の成り行きにまかすのではなく、自覚的に環境への取組みやその強化を望ましい経済社会への移行の手段として活用すべきではなかろうか。言い換えれば、部分最適の積み上げで社会設計を考えることからそろそろ脱却し、大胆な全体最適を目指す手段を持つべき時期ではないだろうか。

やや細かくなるが、目標の持つ影響力を考えてみたい。京都議定書目標は日本にとっては厳しい排出削減をしなくとも達成できるものであった。このため何が起こったのか。図2のとおり、購買力平価で見たGDP当たりのCO2排出量、いわばマクロの省エネ指標は、重要な競争国に追い付かれたのである。国内での環境対策を後回しにしていては、COP21を契機に世界に広がる大環境市場に参入できなくなるおそれもある。日本は意識して、優れた環境目標を持つべきであろう。

サミット議長国としての日本の役割

国際社会は今年末のCOP21で、2020年以降に先進国も途上国もこぞって参加して進めていく気候変動対策の大枠のルールを形成することになる。しかし、その中身は、先進国だけを相手にした京都議定書の場合とは大きく異なるはずだ。

新ルールは様々に事情の異なる国々において可能な、様々に異なる種類や程度の取組みを大きく包み込むことにならざるを得ない。例えば、自主的な約束の実行状況をチェックする仕組みや、対策を強化していくための仕掛け(国際的な資金融通、先進国の自主的な取組みの評価と報償など)が約束の内容になることが見込まれる。また、このパリでの「約束」は、このように粗いがゆえに、その実施のための細目についての合意形成をその後長期にわたって進めることを余儀なくさせるものでもある。

2016年のG7サミット議長国である日本は、パリで萌芽を見せるであろう新たな国際的な仕掛け、例えば国際的な環境資金確保のメカニズムなどについて、世界の合意形成を進める役割を担うことになるだろう。COP21は巨大な外圧を産む。COP21以降には、世界の経営に再びコミットする日本の登場を期待したい。

バナー写真:気候変動に関する非公式閣僚級会合が開かれたドイツ・ベルリンで、G7首脳のお面を付けてデモ活動を繰り広げる環境活動家ら=2015年5月19日(ロイター/アフロ)

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小林 光KOBAYASHI Hikaru経歴・執筆一覧を見る

慶應大学環境情報学部教授。1949年東京生まれ。1973年に環境庁(現・環境省)入庁。気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)の誘致や、同条約京都議定書の国際交渉を担当。2009年7月に環境事務次官に就任。2011年1月に退官。主な著書 『エコハウス私論 ―建てて住む。サスティナブルに暮らす家』(ソトコト新書)

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