気候変動対策への日本の取り組み

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小林 光 【Profile】

パリでの気候変動条約締約国会議(COP21)の12月開催を前に、日本の温室効果ガス削減目標が決定した。今回目標の具体的な内容と特徴、その背景にある日本固有の社会事情などを、環境政策のエキスパートが解説する。

震災発生で状況一変:2020年目標に強い批判

さらに追い打ちを掛けたのが2011年3月の東日本大震災だ。震災の影響で電力がひっ迫すると化石燃料、とりわけ安価な石炭火力発電への依存が高まり、「CO2の排出増加には目をつぶっても発電量を確保したい」という気持ちが政府にも産業界にも高まった。国民は、電力が不足するからといって、安全対策が抜本的に強化されないままでの原子力発電所の再稼働に強く反対し、結果的に火力発電の増加を容認した。こうして、CO2を削減する力も弱まってしまった。

このような中、枠組条約事務局から各国への要請であった2020年の目標の決定については、日本はCOP19を控える2013年に、「2005年度を基準年として3.8%削減(90年度比では逆に3.7%の増)」を目標として登録した。

内外の環境団体などからは強い批判が寄せられた。ただし、この数値は、原子力発電所の再稼働あるいは非稼働の方針が確定していないため、原子力発電によるCO2削減効果を一切見込んでいないものである。

ところが、今回決定した2030年の削減目標は、90年度比で見ると21%ポイント強もの削減積み増しになっている。相当な変化の背景には、2030年度のエネルギー需給の見通しや電源構成などについての政府の政策決定がある。

「電力価格上昇」横目に、供給サイドの削減出来ず

これによると、総発電量はおよそ1兆kWh(ちなみに、近年の年間総発電電力量はやや減少傾向で、およそ9000億kWh)であり、再生可能エネルギーについては、総発電量に対し現状のほぼ倍の22~26%分の電力を賄い、他方で、常時稼働するベース電源である原子力と石炭火力についてはその合計で46~48%を発電し、うち、原子力が福島事故以前のシェアよりも若干低い22~20%、石炭が残りの26%程度を担うこととなった。

報道によると、電力1kWh当たりの平均CO2排出係数は0.38kg程度になるという。これは京都議定書目標達成計画で想定されていた電源構成により実現される排出係数が0.34kg/kWhと言われていたことに比べると、1割程度悪い数値である。その理由は、再生可能エネルギーが伸びたものの、原子力のシェアが減り、石炭火力が京都議定書目標達成期間の頃よりもシェアを伸ばすためである。

この通りであれば、電力供給サイドの力でCO2を大幅に削減する可能性は乏しい。この背景について、「安倍首相が日本全体の景気対策の観点から、電力価格の上昇を避けるように指示したからだ」と指摘する報道もある。安全保障の議論にしても景気対策にしても、現政権は、国内を固めるのに力を入れているのである。そうした眼で見ると、大震災後、電力の価格は家庭用も工場用も20%以上高騰したことは大問題である。その引き下げを図るため、石炭や原子力が重用されることになったと想像される。

他方で、環境派からは「石炭火力の想定が大きく、他方で再生可能エネルギーの想定が低い」との批判がある。論者にもそう思われる。例えば、固定価格買い取り制度(FIT)を強いインセンティブとして設置の計画(2015年4月末時点)が進んでいる太陽光発電所が仮にすべて完成すると、今回の電源構成で見込まれる太陽光発電電力量749 億kWhを30%程度凌駕することになる。

ちなみに、FIT導入の結果、日本はここ数年で太陽光発電の新規設置量(能力ベース)が最も多い国となり、累積設置能力でも世界第3位(14年時点で2330万kW、国際エネルギー機関調べ)にまで達している。

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小林 光KOBAYASHI Hikaru経歴・執筆一覧を見る

慶應大学環境情報学部教授。1949年東京生まれ。1973年に環境庁(現・環境省)入庁。気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)の誘致や、同条約京都議定書の国際交渉を担当。2009年7月に環境事務次官に就任。2011年1月に退官。主な著書 『エコハウス私論 ―建てて住む。サスティナブルに暮らす家』(ソトコト新書)

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