キティちゃんを世界のアイドルに育てた男―鳩山玲人・サンリオ常務に聞く
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世界が祝う「ハローキティ」40周年
2014年に40周年を迎えた「ハローキティ」。正真正銘の日本発・世界のアイドル的キャラクターの誕生40周年を祝うため、この秋から世界各地でさまざまなイベントが開催されている。
米国ではロサンゼルスの全米日系人博物館(Japanese American National Museum)で大々的な回顧展「ハローキティのスーパーキュートな世界への体験」 が開催中(~2015年4月26日)。関連イベントとして初のコンベンションイベント「Hello Kitty Con 2014」が催され、会期の4日間で26000人の参加者を集めた。
高級宝飾品や化粧品、アパレルブランドとのコラボなど、海外ライセンス事業を飛躍的に拡大して、キティちゃんのグローバルな人気づくりに貢献したのがサンリオの鳩山玲人(れひと)常務だ。今では米国、欧州、アジアの130カ国で展開する海外事業を統括する鳩山氏に、ハローキティ海外展開の成功の要因と今後などについて話を聞いた。
まず、ハローキティ40周年については、「海外各地で盛り上がっています」と鳩山氏。「例えば米国では、『Hello Kitty Con 2014』が非常に好評でした。(人気歌手の)ケイティ・ペリーが初日にふらっと立ち寄ってくれた。彼女のようなセレブリティーのファンがいると、報道もされますし、イベントがさらに盛り上がった印象を与えてくれます」。
衝撃の「猫じゃない」報道で海外ファン騒然
実際、ケイティ・ペリー、レディ・ガガを始めとするセレブのキティファンは多い。だが、「欧米人セレブが好きなだけで何千億という規模の市場はできない」と鳩山氏は強調する。
サンリオのマーケットが大きく変化したのは、鳩山氏がサンリオに入社した2008年以降の5~6年のことだ。「それまでは、ハローキティの『主戦場』は、日本とアジア。今は日本よりも欧州単体、あるいは米州単体のほうが大きい市場になっています。そして、20代、30代からティーン、トゥイーン(8~12歳)、キッズ(4~7歳)、トドラー(1~3歳)まで、あらゆる層に対してハローキティのコアファンがいて、それぞれのマーケットができている。実際のビジネスは手堅く非常に広範において展開しています」
ハローキティの海外への浸透度のすごさは、今夏、「キティは猫じゃなかった」という“衝撃の事実”が、米紙ロサンゼルス・タイムスで “暴露” され、世界中のキティファンが騒然となったことからもわかる。鳩山氏は、その誤解の源は、英語の「kitty」が猫も意味することから発した「カルチャーショック」だと考えている。いずれにしても、「ハローキティが、みんなの注目を浴びているということを再確認する機会になりました」。
海外流通網の拡大とライセンス供与を加速
キティの米国進出は1976年にさかのぼる。「70年代から90年代には、今のユニクロのように、ニューヨークに1店舗、サンフランシスコに1店舗つくるというアプローチで、日本のビジネスモデルを海外に進出させるやり方でした。2000年代になって、米国向け商品を米国でも開発し始めたという経緯があります」。
「この数年は、さらにローカリゼーションを一段階進める目的で、サンリオという形態に限らず、いろいろな流通チャネルを開拓してきました。例えば、米国のGMS(general merchandise store=総合スーパー)、デパートや、ドラッグチェーンなどです」
流通網の拡大と並行して積極的に行ったのが、ライセンス供与を通じたコラボレーションだ。つまり、「ハローキティというブランドと先方が持っているブランドを合わせて展開する」戦略である。
「例えば、ルイ・ヴィトングループ(LVMH)のセフォラ、スワロフスキーなどとコラボレーションしてハローキティの商品を作っていただき、それぞれの流通網を通じてハローキティの商品を展開していくアプローチです」
「かわいい、仲良く、助け合い」への共感が大きな強み
この二つの戦略を推し進めたのが鳩山氏だが、もともとハローキティの “ブランド力”は非常に高いという認識だったそうだ。
「ヤフーや、アップル、コカ・コーラ、あるいはマクドナルドなど、知名度があって、みんなに親しまれているものがブランドの定義です。別に高級品である必要はない。そういう観点で見ると、ハローキティはブランドとしてグローバルに確立しているということを2000年代初頭から実感していました」
米国では、元モデルでファッションデザイナー・実業家として活躍しているキモラリー・シモンズがキティのジュエリーを作り、2005年頃にブリトニー・スピアーズがプロモーションビデオで身に着けたころから、非常に知名度が上がった。
「日本の商品じゃなくて、アメリカ人がプロデュースしたアメリカ人による商品だった。ブランド力があって知名度も高い。ただ、みんなが買いたいというディマンドが強いのにサプライができていない。あるいはサプライをしても、その商品がアメリカ人のニーズにフィットしていない。それが一番の問題で、それをどうすればいいのかを検討して変えていったわけです」
「まず、GMSやトイザらスなどの強力な流通網を利用し、チャネルを拡大させていく。例えば子どもの誕生日のときのパーティーグッズや、ギフト用アイテム、学用品など、幅広い商品を供給していく必要がありました」
こうして海外マーケットを拡大していったが、最大の強みはハローキティの40年来のコンセプトである「かわいい、仲良く、助け合い」の精神が世界で共感を生むベースとなり、強力なブランド・アイデンティティーとなったからだという。
「70年代から90年代まで、ずっと米国でもそのコンセプトで事業をしてきたその土台が、近年に花開いたのだと思います」
各国のセンスを生かしたデザインで商品を「育てる」
海外のライセンス事業では、デザインなどに関して、パートナーに大きな裁量権を与えている。「大切なことは、自分の価値判断を押し付けないことです。日本人にしてもアメリカ人、あるいはヨーロッパ人にしても、それぞれが一番いいと思う商品のデザインが顕著に違う。その違いを許容することで、そのマーケットで一番いいものができ、その結果マスマーケット化できる。それぞれの国のセンスを生かした商品を許容して育てていくということが重要です」。
ちなみに、鳩山氏の目から見て、斬新に映ったライセンス商品にはどんなものがあるだろうか。
「やはりファッションブランドとのコラボレーションに斬新なものが多いですね。アンダーカバーというブランドと今一緒に展開しているラインや、セフォラ、H&M、FOREVER21、マークス&スペンサーなど、世界的なファストファッションから、先鋭的な小さなブランドまで、非常に面白い展開ができています。我々はファッションの専業ではないので、こちらは『基礎』を提供して、先方は斬新な企画、デザインを提供する。それが一緒になったときに非常にいい商品が出てくることを実感しています」
サンリオ後継者の急逝を乗り越えていく
順調に海外事業を拡大させてきた鳩山氏だが、サンリオに入社してからの5年間の快進撃は、2013年11月に急死した辻邦彦副社長の後押しが大きかったと率直に語る。
「5年前はサンリオの日本国内での事業が不振で、海外ぐらいしか成長余地が見いだせなかった。経営危機だったからこそ、いろいろ新しいチャレンジができた。辻副社長が思い切って海外ライセンス事業に舵を切る方向に、背中を押して支えてくれました」
次期後継者に予定されていた辻副社長亡き後、今後の海外展開をどう進めたいと思っているのだろうか。
「根源的に変わらないのは、ハローキティの『かわいい、仲良く、助け合い』の精神、それにサンリオの『スモールギフト、ビッグスマイル』という、ミッション・ステートメントの相乗効果から生まれる事業力は非常に大きいということです。今後も、ハローキティを中心にしたサンリオのブランド・ビジネスをグローバルに進めていくというのが一つのミッションだと思っています」
新興国マーケットの開拓と成熟市場の安定成長を
今後の海外展開の課題は、拡大した主要国マーケットの安定化と並んで、新興国マーケットの開拓だという。
「インド、ロシア、アフリカなどの成熟していない新興国のマーケットでも、20代、30代の比較的富裕な層に向けたマーケットは存在します。一方で、女の子がみんなハローキティを持っている状態になるには、10年、20年かかります。ですから、成熟市場とは全く違う戦略に基づき、中長期で考えていく必要があると思っています」
アジアでは、物販中心からライセンス事業にシフトさせている中国を中心に、まだ伸びしろがあると考えている。韓国は参入が早かったため、中長期の安定を目指している成熟マーケットだそうだ。
「台湾も成熟マーケットですが、さらに浸透度合いが高い。最近ではEVA AIRと組んでハローキティジェットを運行させています。テーマパークにライセンス供与をしたり、ハローキティの産院やハローキティホテルがあるなど、いろいろな取り組みができている国の好事例です。11月にはハローキティの誕生日に合わせてハーフマラソンも開催されました」
「こんなところにもキティが!」という驚きを与えたい
一方で、IP( Intellectual Propery=知的財産/ここではキャラクター版権)のポートフォリオを広げる戦略も進め、その一環で『Mr. Men Little Miss』という英国のIPを買収した。
「このキャラクターは欧州、特に英仏で非常に知名度が高い。ハローキティと同様のプラットホームに乗せて、よりグローバルに展開ができると思っています。こうした新たなIPポートフォリオをどうやって育て、拡大させていくのかは、新しいチャレンジです」
意外なところにハローキティを登場させて「皆さんを驚かせる」チャレンジは今後も続けていく。
「例えばデジタル領域です。LINEのハローキティスタンプなどは、非常に大きい成功を収めていますが、活躍の場をこうしたデジタルの新しい領域にも広げていくことで驚きを生むはずなので、今後の展開もぜひ楽しみにしていただきたいと思っています」
(2014年11月サンリオ本社でインタビュー)
聞き手・文 板倉君枝(編集部)/撮影:山田愼二