日本の「ロボット革命」始動へ

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停滞していた日本のロボット産業に「追い風」が吹いている。原発事故に特化した災害対応ロボットや、人型ロボット開発の最前線に立つ研究者に、日本のロボット研究開発の現状と展望を聞いた。

災害対応ロボット競技で東大発ベンチャー企業が優勝

このように、日本では「3・11」を通じて明確になった課題を踏まえて災害対応ロボットの改良が進むが、米国では汎用性の高い人型ロボットを災害対応に活用するための研究開発に力を入れ出した。2013年末に米国防高等研究計画局(DARPA)が主催したロボット競技会「DARPAロボティクス・チャレンジ(DRC)」では、原発事故を想定した災害時に緊急対応できるロボット開発の推進を目的としていた。8つのタスクをこなすことが求められるが、そこには車の運転などが含まれ、明らかに人型に近いロボットを想定している。清水氏はこのDRCを米国で視察する機会を得た。

「優勝したのは、東京大学発のベンチャー企業『SCHAFT(シャフト)』です。このロボットは二脚二腕ですが、人体とは違って前後ろがなく、災害現場での作業に柔軟に対応できる造りになっています。ただ、タスクの1つでもあったがれき上の踏破は、現状ではクローラ型のロボットとは比較にならないほど時間がかかる」

「全体の結果からみても、DARPAから貸し出されている人型ロボット『ATLAS(アトラス)』を利用したチームを除くと、エイプ型―4足歩行や足についたクローラで移動する―ロボットなど、いわゆる人型ロボットではない機体を採用したチームが上位を占めました。人型ロボットは改善すべき多くの課題が明確になりました。それでもシャフトの活躍を見ると、日本のヒューマノイドの技術はレベルが高いことを実感しました。ただし同社は、2013年11月グーグルに買収されていますが…」

車を運転するシャフト社のロボット ©DARPA

日米ロボット共同開発のメリット

日本と米国は、災害対応ロボットの共同研究開発と実証プロジェクトに関して合意している。日本でも、DRCにも参加できるようなロボットを開発する取り組みを促進するということだ。「米国は日本のヒューマノイド技術のレベルの高さを認識しており、日本発の技術を多く取り込みたいのだと思う」と清水氏は言う。

米国にとってのメリットが日本のロボット技術の取り込みだとすれば、日本にとってのメリットは何なのか。「DRCのようにカーレース場を丸ごと借りきって、さまざまなタスクをこなすような大規模なプレゼンテーションを行い、ベンチマークテストができるということの意義が大きい。その後のロボット開発が飛躍的に加速します」。

「経済産業省の呼びかけで、千葉工大も東京大学、大阪大学、神戸大学との共同チームで、2015年6月のDRC参加に向けた二脚二腕の人型ロボットの開発を進めています。櫻壱號、弐號で培った災害対応のためのノウハウを十分に活かせていけると思う」

米国の買収ブーム、ロボット市場「開花」の兆候

この数年、シャフトを含めたロボットベンチャーを次々に買収したグーグルを筆頭に、米国のIT大手や有力ベンチャーキャピタルがロボット技術への投資を加速させている。まさに米国は今、「ロボットブーム」だと清水氏は言う。

「米国の民間企業は、ロボット技術はもう一押しすれば、『花開く』と判断しているのではないでしょうか。一方日本では、これまで国家プロジェクトをはじめ官民においてかなりの先行投資をしてきました。先行しているが故に、これまでの投資にもかかわらずロボットが実用化、事業化しない状況の中で、さらなる積極的な投資を逡巡(しゅんじゅん)している状態が続きました」

日常生活に役立つ身近な分野でも、ロボット技術が役に立つ市場があるということも徐々に認知はされてきている。米国企業のiRobotが2002年に発売したお掃除ロボット「ルンバ」は世界的なヒット商品になった。日本でも、最近になってようやく、東芝やシャープなどのメーカーが掃除ロボットを発売した。

感情認識機能を搭載したロボット「Pepper(ペッパー)」を発表するソフトバンクの孫正義社長(右端)と子会社の仏アルデバラン社のブルーノ・メゾニエCEO(2014年6月5日/時事)

もちろん、2012年に仏アルデバラン・ロボティクスを買収してペッパーを開発した孫正義氏の動きは、家庭用ロボット市場を活性化する意味でも、日本のロボット産業にとって大きな追い風だと清水氏は言う。「日本の投資家、経営者にもこのロボット技術開花の分岐点を敏感に感じ取っている人がいると勇気づけられています」。

清水氏自身は、「新しい存在が生まれて動き出す」というロボット開発の“創造性”に対するワクワク感をあらためて大事にしたいと思っている。

「サービスロボット産業の停滞に関し、まずは消費者のニーズを拾い上げて今現在の技術を統合して役に立つ製品を生み出し、市場を立ち上げないことには開発の予算がつかないという見方があります。それも間違いではありません。ただ、それだけでは新しいものは生まれない。自分がワクワクするものを突き詰めて世に問い、それがみんなをワクワクさせることができれば最高だと思う。私自身がロボット研究開発の道に入った頃の楽しさ、ワクワク感をあらためて思いだし、そのワクワク感を後押ししてくれる環境がようやく整ったという気がしています」

(2014年8月19日インタビュー)

聞き手・文 板倉君枝 (編集部)/ タイトル写真撮影:山田愼二
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