台湾で根を下ろした日本人シリーズ:知る喜びを分かち合う——作家・コーディネーター 片倉真理

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馬場 克樹 【Profile】

片倉 真理 KATAKURA Mari

台湾在住作家、コーディネーター。メディア取材のコーディネーションの傍ら自身も筆を執り続け、2018年4月に台湾生活19年間の集大成として、日本では初の単著となる『台湾探見—ちょっぴりディープに台湾(フォルモサ)体験』(ウェッジ)を出版。さらに深く台湾を知りたいという多くの読者からの支持を集めている。

日本語世代の孫たちにも注目

片倉は日本語世代の孫たちの動向にも注目している。日本語世代が、「愛日」という表現で自分たちの生きた日本統治時代を主観的に語る傾向があるのに対し、現在の30〜40代前半の孫の世代は、より客観的にその時代を捉えようとしている。そして、台湾人としての自らのアイデンティティーを模索する中で、祖父母の生きた時代にその源流を見出していると片倉は考える。

「高雄で季刊誌『薫風』を主宰する姚銘偉(よう・めいい)さんは、兵役時代に台湾の歴史に関心を持ち始め、日本統治時代も台湾史の一部であるという考えに行き着いた方です。昨今、台湾各地で見られる日本統治時代の建築物の保存の動きも、日本が好きだからそうするのではなく、自分たちの郷土に刻まれた歴史を残すという文脈で捉えています。これは非常に健全な方向です。彼らの世代は『知日』の体を採りながらも、その実は『知台』なのです」

戦前、台北市にあった建成小学校の同窓会に「建成会」という組織がある。2年前に台北市で会合を開いたところ、地元から200人以上の参加があった。日本語世代に混じって30~40代の知台世代が多数参集した。彼らの親の世代までは、「族群(エスニックグループ。先住民族、ホーロー人、客家人、外省人の四つに分類)」意識が強く、時には族群間の対立を生み出すこともあった。今もこの枠組みは存在するが、知台世代の多くは、ある概念を共有すれば人々が一つにまとまることは可能だと考えている。

「『土生土長』、すなわちこの土地で生まれ育った人たちは、みんな台湾人であるという概念です。戦後70年以上が過ぎ、本省人と外省人の通婚も進み、4年前に『太陽花学運(ひまわり学生運動)』を主導した『天然独(自分が生まれた時からそもそも台湾は独立した国であるという考え)』の世代も台頭してきています。今のトレンドや文化を引っ張っているのも、知台世代とそれに続く彼らなのです」

台湾では「自分たちの文化とは何か」という問いを模索する時期が長らく続いた。だが、今ではこの問いに対して、台北101や故宮博物院だけではなく、祖父母の家の壁や床にあったタイルや、アパートの窓枠、さらにはレトロな花模様の布など、この土地にあるあらゆるものが台湾文化なのだと、世界に向かって堂々と発信できる時代になったと知台世代は感じている。また、これらをデザイン化し、店名や商品にさり気なく、おしゃれに入れ込むのがトレンドにもなっているという。

取材中の片倉真理氏(片倉佳史氏撮影)

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シンガーソングライター、俳優、ライター。仙台市生まれ。2007年からの3年半、財団法人交流協会(現・公益財団法人日本台湾交流協会)台北事務所に文化室長として赴任。日本に帰国後、東日本大震災の復興支援のボランティアに1年半従事。2012年より台湾に移住。日台混成バンド「八得力(Battery)」を結成し、台湾各地での演奏活動の傍ら、映画、ゲーム、CM等にも楽曲を提供。著書に『約定之地—24位在台灣扎根的日本人(約束の地—24名の台湾で根を下ろした日本人)』(2021年、時報出版)。俳優として台湾の映画、TVドラマ、舞台、CMにも多数出演しているほか、2022年7月より台湾国際放送のラジオ番組『とっても台湾』のパーソナリティにも就任。

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