台湾で根を下ろした日本人シリーズ:風景の一部となる——写真家・熊谷俊之

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馬場 克樹 【Profile】

熊谷 俊之 KUMAGAI Toshiyuki

1971年栃木県生まれ。台湾在住の日本人写真家として、内外から熊谷を推す声は多い。政治家から芸能人まで数多くの人物をカメラに収めてきた。また、自転車で「環島」と呼ばれる台湾一周の旅や、日月潭を泳いで横断、台湾の百名山に登り、伝統行事にも潜入する行動派、体験派の一面を持つ変幻自在の写真家だ。2017年2月には、これまでの業績が評価され、台湾交通部観光局から「台湾観光貢献奨」を受賞した。

被写体の行事には自ら参加し、撮影するのがモットー

人物、風景の他に熊谷の写真にはもう一つの特徴がある。それは伝統行事や習俗を外からカメラに収めるのと同時に、自身がその撮影対象となる行事に飛び込んでしまうことだ。近年ブームの「環島」と呼ばれる自転車で台湾を1周するツアーや日月潭を泳いで横断するイベント「泳渡日月潭」、旧正月の15日前後に台東市で行われる奇祭「炸寒単爺」(爆竹をみこしの上の神様寒単爺に投げ込む祭り)の現場には、時に自転車にまたがり、また時に湖を泳ぎ、はたまたみこしの上で寒単爺の神様に扮(ふん)する熊谷の姿がある。

「世の中には文字だけでは分からないことがいっぱいあります。実体験で見えてくる世界があるのです。台湾をもっと知りたい、ただそれだけです。例えば、『炸寒単爺』では、みこしの上で体感する揺れや投げ入れられる爆竹で身体が灼(や)ける痛み、煙を吸い込んでの呼吸困難、これらによって意識が薄れて一種のトランス状態に陥り、本当に神様に近づけた気がしました」

撮影の対象にいったん内側まで入り込んで体感した上で、再びファインダー越しに対象を捉える熊谷のスタイルは、なかなかまねできるものではない。これは台湾という土地に対する止めどない好奇心と愛情があり、なおかつそれを支える体力と行動力があって初めて成り立つことなのだ。

提供:熊谷 俊之

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シンガーソングライター、俳優、ライター。仙台市生まれ。2007年からの3年半、財団法人交流協会(現・公益財団法人日本台湾交流協会)台北事務所に文化室長として赴任。日本に帰国後、東日本大震災の復興支援のボランティアに1年半従事。2012年より台湾に移住。日台混成バンド「八得力(Battery)」を結成し、台湾各地での演奏活動の傍ら、映画、ゲーム、CM等にも楽曲を提供。著書に『約定之地—24位在台灣扎根的日本人(約束の地—24名の台湾で根を下ろした日本人)』(2021年、時報出版)。俳優として台湾の映画、TVドラマ、舞台、CMにも多数出演しているほか、2022年7月より台湾国際放送のラジオ番組『とっても台湾』のパーソナリティにも就任。

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