台湾の若者で「注音符号」が愛されているわけ

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独特のニュアンスが魅力に

台湾本位の考えが進む中で、言ってみれば中国由来であり、キーボード入力では「仮名入力」のようにローマ字入力以外にもう一つ入力法を覚える必要がある注音符号をいちいち学習するのは面倒だと考える台湾人は、特に戒厳令下に生まれ育った現在の中年層に見られる。彼らにとって注音符号はあくまでも発音記号でしかなく、時に上述の葉立法委員のように注音符号の廃止を訴えたりする。民主化以降の台湾で、注音符号は中国由来の過去の産物の一つとして使用停止や廃止が何度か検討されたが、そのたびにいつも台湾社会で物議を醸してきた。

一方、ポスト戒厳令世代の状況はどうだろうか。台湾の20代の若者になぜ注音符号に愛着を感じるのか聞いたところ、「単に小さい頃から使っているからではない、日本語の“の”も注音符号の“ㄉ”も“かわいい”や“柔らかい”ニュアンスがあって思わず使ってみたくなるのだ。しかし、皆が日本語の“仮名”を全部知っているとは限らない。でも注音符号なら誰もが知っている。だから使いやすい」と語っていた。

アイデンティティーのアイコンとして定着

注音符号への愛着は、当初の表現方法の一つから、アイデンティティーという要素が注入され、いつの頃か若者の間で中国とは違う台湾の象徴の一つと捉えられるようになった。

言葉や文字は自分たちと他民族や他国家とを区別する最も分かりやすいものだが、現在の台湾人が台湾ナショナリズムを主張する際、そこには台湾の国語と中国の普通話の違いはどこにあるのかという問題に直面する。台湾には従来使用されてきた閩南語などをベースにした台湾語があるが、北京語ベースの国語が普及した現在、台湾語を読み書きまで自在に操れる人は、戒厳令下では公の使用を禁止したこともあって、台湾北部の都市部を中心に一時減少してしまった。現在、学校で台湾語教育が進められているが、台湾語がただちに唯一の国語になるのは難しい。

一方、国語と普通話の目に見える違いについては、漢字の字体で旧字体(繁体字)を使用していること、そして注音符号を使用していることがある。そのため、台湾人が注音符号という身近なところにアイデンティティーを見出すのは理解できる。生まれながらにして台湾は中国とは別であると認識している「天然独」と呼ばれる若者世代にとって、注音符号がもはや発音記号という本来の意味を超えて、アイデンティティーのアイコンになっていることには留意しておきたい。

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