日本人新郎が体験した台湾のびっくり結婚顛末(てんまつ)記・準備編

文化

友人のための「拍婚紗」

「拍婚紗」はウェディングフォトの撮影だ。結婚式場の入り口には、製本された巨大な写真集がほぼ必ず置いてある。地元の観光名所、あるいはヨーロッパ風のお城とか雪国とか森や海辺などファンタジックな風景をバックに、ウェイディングドレスやチャイナドレス、スーツに身を包んだ新郎新婦がうっとりと2人の世界に浸っているもので、顔にもかなり修正が施されているから、新郎新婦を直接知っている人なら楽しんで見られる。赤の他人の物だったらちっとも興味をひかれないだろうけれど。このお伽噺(とぎばなし)風写真集は1970年代にはもう広まっていたらしい。そういえば台湾にはかつて若い女性層をターゲットにした、まるで自分がアイドルになったかのような写真を撮るサービスが流行していたし、「変身写真」は今もって日本人観光客に大人気だ。コスプレ熱も日本に劣らず高いのである。憧れの俳優や仮想世界のキャラクターのようになりたい、そんな自分を見てみたい、という願望は誰でも多かれ少なかれ持っているものかもしれないが、それに応えるビジネスがこのように確立しているのは台湾人の商魂の表れでもあるだろう。

(撮影:大洞 敦史)

まさか自分があの写真集を作る日が来ようとは思いもしなかった。まずは義父母に連れられて婚紗館と呼ばれる店へ行き、衣装を選ぶ。撮影場所は屋外かスタジオかの2択で、僕らはスタジオを選んだ。周囲の目を気にしなくていいし、移動が要らないので早く終わらせられるだろうと思ったから。ところが思惑に反し、僕らは当日朝8時から2時間かけてメークと髪型のセットとドレスアップをし、それから実に夜7時まで、トタン造りの倉庫の中に広がるメルヘンチックな世界の中で、陽気なカメラマンの「もっと自然な笑顔で!」とか「見つめ合って!」といった要求に従うがまま、宮廷風サロンや銀世界や壁一面のバラやカフェをバックに、蜜のように甘ったるい写真を撮られ続けたのだった。

(提供:大洞 敦史)

放心状態でスタジオから店に戻ると、ほほ笑みを浮かべた女性マネジャーが待っていて、写真集の大きさと枚数の交渉に入る。「これは一生の記念になるものですよ。将来夫婦げんかをした時などに写真集を開けば、新婚の頃を思い出して気持ちが穏やかになるものです」などとこんこんと意義を説かれながら。交渉は義父母に任せ、僕らはただ「顔の修正は入れないで」と拝むようにして頼んだ。

(提供:大洞 敦史)

「喜帖」を送って「喜餅」を手渡す

「發喜帖・喜餅」は結婚式に招待する人々に「喜帖」と呼ばれる招待状を送る際、特に新婦側の親戚・友人に限って「喜餅」と呼ばれる中華風ケーキを合わせて送る習慣を指す。数量は提親の際に新婦側が決め、費用は新郎側が負担する。相手が遠方に住んでいる場合を除き、原則的に直接相手の下を訪れて手渡ししなければならない。ある日の夜、僕と妻が喜餅を持ってバイクで友人の家に向かっている途中、無免許運転のバイクに横から追突され、救急車で病院に搬送される羽目になってしまった。運よく大事には至らなかったが。

またこれも一つの習慣で、新婦の両親が新郎に新品のスーツ一式を贈ることになっている。僕は既にスーツを持っていたので遠慮したのだが、義父母がぜひにということで、オーダーメードで作っていただき、その上ネクタイ、ネクタイピン、ベルト、革靴までひとそろい贈ってくださった。

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