台湾と沖縄の戦後秘史——大東島の嘉義サトウキビ農民の出稼ぎ体験を語り継ぐ

文化

絵本で次の世代に出稼ぎの歴史を伝える

上林地区から南大東への出稼ぎが始まって、約半世紀が経過している。孫さんらは「出稼ぎの経験を記録することによって、その現代的な意義を考えていきたい」と、昨年から絵本『わたしのキビ刈りおばあちゃん(我的剉甘蔗阿嬷)』の制作を開始した。文案や図案の作成は、台湾の国立嘉義大学ビジュアルアーツ学部の胡惠君副教授(デザイン学)とその学生がサポートし、表紙と裏表紙合わせて18ページの試作版が出来上がっている。

『わたしのキビ刈りおばあちゃん(我的剉甘蔗阿嬷)』の一場面(撮影:松田 良孝)

船酔いに悩まされながら南大東島に渡った村の人たちが、昼夜を問わず働き続ける姿や、村に残してきた子どもたちを思う親心が柔らかなタッチで描かれている。帰国間近に土産を買い込む表情はにこやかで、養命酒や家電製品、日本製の医薬品が細かく描かれているところは体験者のインタビューでから再現したものである。

試作版は女性たちの体験を中心にまとめられており、男性の簡さんが牛車でサトウキビを運搬した経験などには触れられていない。孫さんらは内容をさらに改訂し、作品の完成度を上げていくことにしている。絵本の一場面を立体画像で表現しようとするアイデアの実現にも取り組む。

南大東島への出稼ぎ経験を、台湾に来る外国人労働者のために役立てる

南大東島の農家が大林の人たちのために、午後の休憩にちょっとした食べ物を用意したり、病院へ連れて行ったりする様子も出てくる。この場面が印象に残るのは、続いてこんなせりふが用意されているからだ。

出稼ぎを経験したおばあちゃんが孫に語り掛ける。

「台湾には今、東南アジアからたくさんの人が働きに来ているでしょ?南大東の農家の人たちが台湾の人たちに良くしてくれたように、台湾に働きに来ている人たちにも良くしてあげようね」

孫が答える。

「お隣のおばあちゃんは、インドネシアから来た人にお世話してもらっているね」

かつて村の人たちが沖縄で体験した外国人労働者としての経験と、今まさに台湾で外国人労働者として暮らしている人たちの境遇を重ね合わせてみようという視点である。

多数の外国人労働者を受け入れている台湾では、高齢者の介護でも外国人労働者の役割が無視できなくなっている。孫さんによると、上林地区ではインドネシア人15人、ベトナム人1人が高齢者の家庭介護に当たり、その数は増えそうだという。

孫さんは「大林の人たちは、貧しかったから沖縄へ出稼ぎに行った。その体験から、インドネシアなどから働きに来ている外国人が今、台湾でどのような苦労をしているのか考えるきっかけになる」と話す。台湾の農村から沖縄の小さな島への出稼ぎ経験が、台湾の「今」を見詰め直すきっかけを与えていた。

参考文献

  • 『南大東村村誌(改訂)』南大東村村誌編集委員会編、南大東村役場、1990年
  • 『琉球製糖株式会社四十周年記念誌』若夏社編、琉球製糖株式会社、1992年
  • 『出外 台日跨國女性的離返經驗』邱琡雯、聯經出版、2013年
バナー写真=1967年 2月27日に撮影された南大東島の写真(沖縄県公文書館所蔵、琉球列島米国民政府撮影)。後方はサトウキビ畑とみられ、右後方にはサトウキビを積んだ荷車が見える。

この記事につけられたキーワード

台湾 沖縄 歴史 離島

このシリーズの他の記事