『BRUTUS』台湾特集、なぜ人気?—— 西田善太『BRUTUS』編集長 ✕ エッセイスト・一青妙対談

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野嶋 剛 【Profile】

情報誌『BRUTUS』の台湾特集号の増補改訂版が3月15日に出版され、再び大きな話題を呼んでいる。昨年7月に発売された台湾特集号は完売店が続出するほど異例の大ヒットとなり、台湾政府からの台湾観光貢献賞も受賞した。さらに増ページした増補改訂版では、新たに震災に遭った花蓮などの情報も加えている。台湾で大きな賛否両論の議論を呼んだ台南・国華街の表紙は、今度は夜の景色となって再登場している。『BRUTUS』西田善太編集長と、台南市親善大使でnippon.comコラムニストの一青妙氏が対談し、『BRUTUS』台湾特集の全てを語り尽くした。

国華街を表紙に選んだわけ

一青  台湾の人たちに『BRUTUS』の台湾特集号の表紙が、大変注目されたのは確かです。台湾特集号を作るとなったとき、最初から、表紙はあの台南の国華街を取り上げると決めていましたか。

一青妙氏(撮影:野嶋 剛)

西田  そうではありません。『BRUTUS』の海外特集は、もともと都市を基本にしています。ニューヨークやロンドン、東京という都市を過去にも取り上げており、その表紙には各地にある「タワー」を載せてきました。しかし、この特集号ではその方針を変え、台北一都市ではなく台湾全体を取り上げました。台湾の風土や文化は南北や東西の違いも大きく、台湾のいいところを全て紹介したかったのです。

もちろん、台北の101ビルを表紙にするアイデアもあったのですが、それだと台北だけの特集のように見えてしまう。また、夜市の雑踏の光景も候補にはありましたが、女性誌の台湾特集と同じ雰囲気になってしまう。そこで、ストリートを表紙にしました。国華街の写真も、空間が上に抜けていく風景という意味では、他の都市の表紙の構図とは同じなのです。国華街の写真は、天気の関係もあり、3回撮り直してもらいました。増補改訂版用では改めて、夜の国華街を撮り直しました。もちろん、最初は表紙を巡ってあんな騒ぎになるとは全く思っていませんでしたから、大変驚きましたが(笑)。

中西剛担当編集(左)と西田善太編集長(右)(撮影:野嶋 剛)

一青  台南の人たちは国華街が表紙になったことを喜んでいましたね。普段、台南の人は台北にコンプレックスがあり、台北のことを偉い人々が住む土地という意味で「天龍国」と呼んでいるぐらいです。ですから『BRUTUS』の特集の表紙で、台南を取り上げてもらって自信になったと思います。一方、台南以外の人たちで反発の声があったのは、もともと台湾の人たちは日本が清潔な国だと思っているので、ああいう雑多なものを『BRUTUS』で取り上げられたことで、隠していたものを外に見せられてしまったという恥ずかしさがあったと思います。何しろ、台湾で『BRUTUS』はおしゃれなカフェなどに置いてあるステータスの高い雑誌という位置付けですから、その分、反響も大きかったのだと思います。

また、今回の増補改訂版で大変面白かったのは、表紙騒動の中で話題になった「BPUTUS」という表紙作成アプリで作られたありとあらゆる表紙が、巻末の2ページにわたって、びっしり貼り付けられていたことです。
このページ、実は今回の増補版で、表紙の次に台湾人が大注目したページなんです。私の台湾の友人たちはみんな大感激して、中国語で「超酷了!(かっこいい!)」と絶賛し、逆に感謝していました。遊び半分で作ったものが、まさかあのような形で掲載されるとは思ってなく、意表をつかれた感じで、台湾のみなさんも興奮したんでしょうね。

西田  雑誌は表紙も大事だけれど、やっぱり中身で勝負したい。ですから、表紙の問題についてはあまり議論に火をつけたいと思わないんです。大きく議論されるとき、メディアの取材は朝日新聞だけ、引き受けました。本来の中身にスポットライトが当たらないのは好ましくないからです。ただ、あの騒ぎの中で、このアプリは、とてもほほ笑ましかったし、気持ちが救われました。雑誌にとって、表紙をいじられるのはあまりうれしくないことなんだけれど、ユーモアで返してくれたというのは楽しかった。台湾の皆さんが遊びに乗ってくれたわけだから、こちらも気持ちを示さないといけません。アプリを作った人に許可を取って巻末に見開きで「BPUTUS」のさまざまな表紙を掲載しました。1冊の雑誌でこれだけの表紙ができたのは前代未聞で、とても痛快だったので、「ありがとう(謝謝)」というコメントを付つけました。

巻末に見開きに「BPUTUS」のさまざまな表紙を掲載(撮影:野嶋 剛)

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ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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