「台湾料理」は何料理?

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大岡 響子 【Profile】

人気の旅行先としてすっかり定着した台湾だが、「台湾でおいしいものを食べる!」ことは、台湾旅行に欠かせない要素だ。日本人旅行者の小籠包好きは、鼎泰豐の店先を見れば一目瞭然だし、古都台南も美食の街として認識されるようになってきた。しかし、「台湾料理」(台菜)とはどういうものかを改めて考えてみると、説明するのはなかなか難しいことに気が付く。

台湾料理は何料理?

台湾料理とは、ということをぼんやりと考え始めると、昨年亡くなられた「老台北」(司馬遼太郎の「台湾紀行」でこう呼ばれている)こと蔡焜燦先生のひと言が思い出される。数年前の真夏のある日、台北での留学生活を始めたばかりの私は、蔡先生の饗応にあずかる幸運を得て国賓大飯店12階にあるレストランのソファ席に座っていた。初めてお目にかかった老台北は、まるで歴史博物館の音声解説のようにとうとうと台湾の歴史について語り聞かせてくれながら、私が気を抜いたタイミングを見計らって歴史と日本語の小テストを挟み込んでくるチャーミングで、油断のならないおじいさんだった。一体どれだけの料理がテーブルに並べられただろう。小テスト付き昼食会の終盤に、あまりのおいしそうな匂いにお坊さんも塀を飛び越えてしまうというあのスープが運ばれてきた。「これがかの有名な佛跳牆(ファッチュウーチョン)か!」と感動している私に老台北はこう問い掛けた。「これは何料理かな」。

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明治学院大学兼任講師。国際基督教大学アジア文化研究所研究員。専攻は文化人類学。植民地期台湾における日本語の習得と実践のあり方とともに、現在も続く日本語を用いての創作活動について関心を持つ。「植民地台湾の知識人が綴った日記」が『日記文化から近代日本を問う』(笠間書院、2017年)に収録されている。

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