便利さと危なさが同居する台湾のタクシー
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大手旅行会社の年末年始の海外旅行先ランキングによると、台湾は2年連続でトップを獲得した。年末年始に限らず、日本人にとって台湾旅行は、常に人気旅行先ランキング上位に位置している。その理由として親日家が多く、見る、食べる、買うという要素が充実していることが挙げられる。
もう一つ重要なポイントとして治安の良さがあげられるだろう。台湾人は気さくで親切な人が多く、道に迷っていると積極的に声を掛け道案内をしてくれる台湾人も多い。また日本語を話せる台湾人が多いことも日本人が安全と感じることに影響しているだろう。私も財布を置き忘れた際に全て戻ってきたことや、道端に落とした重要書類が拾った方から郵送で送られてきたこともあり、台湾の人の誠実さ、治安の良さは身をもって体験している。
しかし、どんなに親日家が多くとも、台湾は日本人にとって外国である。文化も違えば生活習慣も違う。何より考え方や価値観が大きく異なる。そうしたことから仕事の仕方や仕組みが大きく違うのは言うまでもない。日本人にとって非常に過ごしやすい台湾では、時にそうした前提を忘れてしまい、大きなトラブルに巻き込まれることもある。
安く便利な台湾のタクシー
台湾のタクシーは地域によって違いはあるが、初乗り料金が70元〜85元(1元約3.7円)と非常に安く、使い勝手が良い。特に地下鉄やバスといった公共交通システムが発達していない台北以外の地域では、タクシーが主な公共交通システムとして活躍している。そしてタクシー運転手にはフレンドリーで親切な人も多いが、一方で料金メーターが動いていない、遠回りをするといった、タクシーにまつわる問題も後を絶たない。過去には遠方に連れ去られ、暴行を加えられたなどの被害、トラブルもあった。もちろん観光誘致に力を入れている台湾政府、自治体も懸命に安全強化に力を入れているが、まだまだ改善が必要である。
実際、私が昨年11月に出会ったタクシー事件は、その悪質性から全国ニュースになるなど大きなニュースとなった。
私が悪質タクシーと遭遇したのは、台南の一大観光地である花園夜市からホテルまでの帰り道である。通常、流しのタクシーに乗車するより、タクシー乗り場から乗車した方が安全であることから、タクシー乗り場の誘導員に任せ乗車したのだが、これが大きな間違いだった。まず乗車して驚いたのは、片側1車線の道路を時速85キロメートル近くで走行し、まるでカーレースのように前の車を追い越し始めたことである。非常に危険な行為であり、仮に事故になれば命に危険も及ぶ。同乗していた日本から観光に来ていた友人も非常に怖がっていた。筆者は何度も運転手に速度を下げてゆっくり走るよう注意したが、全く無視された。そしてそれ以外にも信号を無視し、猛スピードで交差点に入る危険走行もあった。恐怖の走行が終わりやっとホテルに着いたと思ったら、ここからまたさらに問題が発生した。通常料金の範囲より高額の料金を請求されたのである。よく見たら料金メーターが動いていなかった。そのことを指摘すると、料金メーターは故障しているが台南市では夜間は固定料金だという答えが返ってきた。実際にはそのようなルールが存在しないことは、台南に長く生活している私はよく知っている。そこでタクシー車内に掲示が義務付けらえている運転車登録証が掲示されていなかったので見せるように要求したが、これも家に忘れてきたと言って拒まれた。この時点で私も腹を決め、料金を払う前に車のナンバーの写真および車体に記載されているタクシー会社番号を写真に撮り、その後に言われた通りの料金を支払った。その際渡された領収書に記載されたタクシー会社に電話したところ、この領収書は他のタクシー会社が発行したものだった。同伴していた友人の楽しい旅行を台無しにしてしまい申し訳ない思いでいっぱいだったが、友人から「台湾は非常に治安が良く安全だと聞いていたが、1人ではタクシーに乗れないね」と言われたのが残念でならなかった。なお、この事件には思わぬ後日談がある。
台湾のタクシーシステム
タクシーといっても世界各国でその管理システムは全く違う。システムの違いからサービスに不満を持ち大きなストレスになることもある。ここでは台湾のシステムについて説明する。
まず日本と大きく異なるのは、ドライバー自身が車を購入することだ。タクシードライバーは車を購入し「車行」という交通会社に所属し、タクシー運転車登録証を得る。車行はドライバーから加盟費として毎月1000元〜2000元を徴収する。車行の主な収入は、このドライバーからの加盟費となる。ここが日本とは大きく異なる。日本のタクシードライバーはタクシー会社の社員として会社から給料をもらうため、会社がドライバーに対し車を貸与しサービス、接客態度などの訓練および管理を行う。これは雇用関係にあるからこそできる管理だ。だが、台湾では車行はタクシードライバーから加盟費用をもらう立場である。多くのタクシードライバーが所属することで利益が上がる構造だ。そのため車行とドライバーの関係は雇用関係にない。車もドライバーのものだ。そのため、車行が日本のタクシー会社のようにドライバーに一定のサービス水準や、接客態度を求めることは簡単ではない。なお、台湾では6年間車行に所属してタクシードライバーとして務めることで、個人タクシーとなることができる。
このような構造から、車行は仮に問題のあるドライバーだとしても、所属させることで収入が得られるため、タクシードライバーが車行を首になっても新たな仕事を探すのは比較的容易である。さらに昨年、最高裁判所により、行政が詐欺や窃盗の罪で有罪になったタクシードライバーに対し、職業免許(日本でいう二種免許)剝奪処分を行うことは憲法に保障されている仕事権に照らし、違憲との判断が出されたため、悪質ドライバーから職業免許を剝奪することは非常に困難だという問題もある。これに対し、台南市公共運輸処では、悪質ドライバーの撲滅に向け、違反を繰り返すごとに罰金が高くなる累進罰金制度を取り入れ、厳罰化を進めている。
次に料金体系を見てみる。地域によって基本料金は異なるが、台南では初乗りが1.5キロメートルで85元。250メートルごとに5元追加される。夜間は午後11時から翌朝の午前6時までは20%の割増料金となる。トランクを利用する際にはトランク利用料金として10元が必要となる。それ以外にも旧正月期間は、各地域で特別料金が加算される。台南では基本料金に50元が追加となる。こうしたことを事前に知っておくだけでも、無用なストレスや不満を感じることなく旅行期間を快適に過ごせるだろう。なお台南市公共運輸処では、特別料金などの表示を中国語および英語、日本語で表示するよう努め、旅行者が安心して安全にタクシーを利用できるよう、車行などに多く働き掛けている。
思わぬ結末
私が出会った事件にはその後があり、思わぬ形で台湾人の正義感を改めて感じることとなった。撮影した悪質タクシーのナンバーをフェイスブックで公開したところ、すぐにその話が広がり、翌日朝には新聞記者から取材があり、その日の昼にはニュースとなった。そしてニュースはさらにテレビメディアなどにも広がり全国ネットでのニュースへと拡大、事件から2日目の午前中に悪質ドライバーは摘発されたのである。これには事件に遭遇した友人も非常に感激し、台湾人の正義感を称賛し、またぜひ台南、台湾に旅行に来たいと話し帰国した。なお、この事件にはさらにまた後日談があり、事件から2週間後、この悪質ドライバーはまた同じような行為をし、摘発されたのである。
こうした結末の背景には、正直なところ私が台湾に精通し、さらに台南市政府顧問を務めているなど、多くの有利な状況があったことは間違いない。仮に一旅行者が私と同じようなドライバーと出会っても、私と同じような対応をすることはほぼ不可能だ。しかし、台湾が観光大国を目指すのならば、どのような利用者でもしっかりと抗議、通報できるシステムの構築が必要である。
台湾人の正義感、おもてなしの精神から考えれば、遠くない将来に旅行者が安心して安全に利用できるタクシーシステムが出来上がっていると信じている。参考 タクシー利用時の留意事項 (出典:日本台湾交流協会)
1. 信頼できる安全なタクシーの見分け方- 汚れがひどい、車体に傷が多いタクシーは避け、きれいな車体のタクシーを選ぶ。
- 台湾のタクシーは、後部の窓ガラスおよび車体の横に車のナンバーが表示されているので、この表示のない車および表示の文字が小さい車は避けた方が安全。
- 車内前部に運転者登録証が乗客に見えるように置かれているので、乗車時に必ず確認するようにし、これがなかったり写真が違ったりする場合も乗車を避けること。乗車時には必ず確認すること。
- 車窓に不透明のフィルムが貼ってあるなど、車内が外から見えにくいタクシーは乗車を避けるようにする。
- 運転手が酒臭かったり、服装が乱れていたりするような場合は乗車を避けるようにする。
- 女性1人でのタクシー利用はなるべく避けること。特に夜間は危険。
- 男性の場合でも例えば深夜に1人で郊外へ行くような場合、タクシーの利用は避けること。深夜に乗る必要があり、不安を感じる場合は、最寄りの警察派出所に赴き、タクシーを呼んでもらう。
- 中国語が不得意な方は、行き先を運転手に伝える際に、紙に住所等を書いて示すか、中国語が得意な方にお願いして電話越しで伝えるようにする。
- 運転の乱暴なタクシーや故意に遠回りするようなタクシーに乗車した場合は、面倒でもその場で料金を払って降車し、別のタクシーに乗り換える方が賢明。無用な口論は避けること。
- 料金が高過ぎると感じた場合、あるいは故意に遠回りされた場合などは、タクシーの運転手名や車両ナンバー等をメモしておき、降車後、直ちに警察に通報する。