安室奈美恵の軌跡—「新たな時代」を生きるアーティストたちの道しるべ

文化

「有力」事務所を離れ、新たな活路を模索する芸能人たち

ちょうど安室奈美恵が23年間所属したライジングプロダクションからエイベックスへ移籍した2015年ごろを境にして、日本の芸能界、および音楽業界では、タレントやアーティストの独立問題が継続して起きている。それ以前にも日本の芸能界において同種の騒動はたくさんあったが、近年はそのジャンルのトップクラスのタレントや、「有力」とされてきた事務所がその当事者となっているのが特徴だ。NHK連続ドラマ小説『あまちゃん』でスターダムを駆け上がった能年玲奈(現在は「のん」)、25年間にわたって日本の芸能界のトップを走り続けてきたSMAP、CM起用社数ランキングで14年に続いて17年再びトップに立ったモデル・タレントのローラ。18年に入ってからも、1990年代後半の安室ブームの立役者であった音楽家・プロデューサー、小室哲哉の引退表明や、小泉今日子がデビュー以来36年間所属していた大手芸能事務所のバーニングプロダクションから独立したことなどが大きな話題となった。

もちろん個別に事情は異なるものの、「平成の終わり」といったような“クリシェ”とは別の次元で、日本のエンターテインメント界全体に大きな変動が起こりつつあるのは間違いない。「のん」や「元SMAP」のメンバーがインターネットTVやソーシャル・メディアに活躍の場を広げていること、ハリウッド映画『バイオハザード:ザ・ファイナル』(2016年公開)にも出演したローラが海外での活動を探っていることも象徴的だ。これまで日本のエンターテインメント界において圧倒的な影響力を持っていた地上波のテレビ局、そのテレビ局と太いパイプでつながっている大手芸能事務所、そしてその両者の関係を補強する役割を果たしてきた地上波テレビのワイドショーやスポーツ新聞をはじめとする芸能メディア。地上波テレビの影響力が後退している現在、そのような旧来の「日本の芸能界」とは異なる空気を求める、送り手と受け手双方の機運が生まれている。

今から10年以上前、早々とテレビに出演することをやめた安室奈美恵は、音楽業界が不況に見舞われてきた時代にあって、異例のCD/ブルーレイ/DVDのセールスパワーをキープし、ツアーの動員に関してはむしろ右肩上がりで上昇し続けてきた。安室ファンを自称する女性アーティストや女性タレントがとても多いのは、彼女の進化し続けてきた表現やいつまでも変わらない美しい容姿への憧れだけでなく、そんな毅然(きぜん)とした活動姿勢への共感もあったのではないか。2018年9月16日、安室奈美恵は引退する。しかし、彼女が残した足跡は、これからの「新しい時代」を生きていくアーティストやタレントにとって、きっと大きな道しるべとなっていくに違いない。

(2月17日 記)

バナー写真:2016年3月4日、コンサート開催のために台北に到着、多くのファンに囲まれた安室奈美恵(Top Photo/アフロ)

この記事につけられたキーワード

J-POP 音楽 安室奈美恵 芸能

このシリーズの他の記事