「在日台僑」と「在日華僑」の間で——在日中華民国国籍保持者/台湾出身者をどう位置づけるか

政治・外交

岡野 翔太 【Profile】

「台僑」議論の死角

台湾社会の「台僑」「華僑」認識を考える上で、時代力量の林昶佐議員が2016年3月に僑務委員会陳士魁委員長に対して行った質疑は注目に値する。

このとき林委員は、台湾が対象としている「僑胞」(在外同胞)が一体誰なのかについて詰問した。質問を受けた陳士魁委員長は「僑委会のサポート対象の僑胞は4000万人いる」、「僑委会は『台裔』と『華裔』の区分はせず、藍緑の支持も問わない。中華民国を支持し、台湾を愛している人々全てをサポートする」と説明した。すると林委員は「台湾2000万人の納税者が4000万人をサポートすることは税金の無駄遣いだ」「台湾から移民した台僑と限定すべき」と反論した。そのため「華僑は台湾の財産か、それとも負担か」との声が、台湾の新聞紙上を賑わした。

こうした議論の中で「中華民国国籍」ないし「中華民国国民」の定義に関心が及ばなかったことは残念である。万が一、林委員の主張通り「台湾から移民した台僑と限定すべき」とした場合、中華人民共和国国籍を取得している台僑も含まれるのであろうか。あるいは、王貞治氏のように台湾とは地縁・血縁関係のない中華民国国籍保持者の国籍を剥奪するのだろうか。

このように台湾社会における「台僑」や「華僑」認識と、現実の台湾と結び付いている「台僑」や「華僑」とは齟齬(そご)が生じており、海外における中華民国国民の範囲はどういった人びとが含まれているのかといった視点が死角となっている。

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岡野 翔太OKANO Shōta経歴・執筆一覧を見る

大阪大学人間科学研究科博士課程。台湾名は葉翔太。1990年兵庫県神戸市生まれ。1980年代に来日した台湾人の父と日本人の母の間に生まれたハーフ。小学校、中学校は日本の華僑学校に進む。専攻は華僑華人学、台湾現代史、中国近現代史。著書に『交差する台湾認識-見え隠れする「国家」と「人びと」』(勉誠出版、2016年)。

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