京都に現れた「台南の味」——日本と台湾、2つの古都を結ぶ味の物語

文化

一青 妙 【Profile】

京都にある台湾料理の人気店「微風台南」

京都といえば、日本料理の本場である。平安時代以来の長い歴史をもった和食の分厚い壁に阻まれ、中華やイタリアンも含めて外国料理は、あまり大きく勢力を広げられない土地柄だとも言われている。その京都で、本場の味を提供し、密かに人気を広げている台湾料理の店があるという噂が、東京にいる私の耳に届いた。

京都駅から車で15分ほどの距離で、京都御苑からほど近い便利な場所に、その店があるという。大阪での仕事の途中に、立ち寄ることにした。

ところが、知り合いから教えてもらった住所に行っても、それらしき店が見つからない。同じ道を2往復して、やっと、台湾の九份を思わせる赤い提灯(ちょうちん)があることに気が付いた。目立たないので見落としていた。

「香嫩多汁滷雞腿弁當、外皮酥脆炸排骨便當(肉汁たっぷりの煮込み鶏モモ弁当、皮はカリカリの揚げスペアリブ弁当)」

外に置かれた黒板に、手書きの文字でメニューが書き込まれていた。古ぼけた木机の上には、黒松沙士や冬瓜茶といった台湾のソフトドリンクの缶が並んでいる。入り口の扉には、台南の正興街の「正興猫」のステッカーが貼られている。

見上げると、「微風台南」という店名の控えめな文字が見えた。

次ページ: 店舗は日本統治時代の台湾、そして台南を意識

この記事につけられたキーワード

京都 台湾 台南

一青 妙HITOTO Tae経歴・執筆一覧を見る

女優・歯科医・作家。台湾人の父と、日本人の母との間に生まれる。幼少期を台湾で過ごし11歳から日本で生活。家族や台湾をテーマにエッセイを多数執筆し、著書に『ママ、ごはんまだ?』『私の箱子』『私の台南』『環島〜ぐるっと台湾一周の旅』などがある。台南市親善大使、石川県中能登町観光大使。『ママ、ごはんまだ?』を原作にした同名の日台合作映画が上映され、2019年3月、『私の箱子』を原作にした舞台が台湾で上演、本人も出演した。ブログ「妙的日記」やX(旧ツイッター)からも発信中。

このシリーズの他の記事