台湾も日本も、都市に暮らす30代はみな孤独——日本公開の『52Hzのラヴソング』魏徳聖監督が語る新作の魅力

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野嶋 剛 【Profile】

映画を撮る楽しさを思い出させた作品

作品の肝は、2人の同性愛の女性カップルである。演じるのは、人気女優の張榕容と李千娜。最初は不幸な境遇にいるという設定で始まった主役の4人の男女に比べて、同性愛の2人の方が、はるかに幸福で、自信を持って愛し合い、周囲の人たちを励ましているように見える。

「映画では、彼らは一番楽しそうに生きています。彼らは正常な人たちを励まし、愛情の価値を信じさせようとします。立場が逆転しているのです。それぐらい、都市の男女の孤独は深刻で、むしろ普通ではないと思われる同性愛の人たちが健全な恋愛をしていることを際立たせたかったのです」

今、魏徳聖は次回作の歴史大作のために企画やコンテ作り、資金集めに奔走しており、長い準備期間のため、すぐに撮影が始まるわけではない。その間に一つの作品を作る時間があることに気づき、脚本はすぐに2〜3週間で書き上げた。曲を作ってもらい、役者を探した。

魏徳聖監督と筆者(提供:野嶋 剛)

「この映画では、文化の対立や歴史の負荷もなく、事実の検証も必要ない。撮影は1か月ちょっとでクランクインしてしまいました。その代わり、キャスト探しには随分時間をかけました。撮影は本当に楽しく、改めて、映画を撮るって本当に楽しいことだと思い出しました(笑)。『海角七号』のときは、台湾映画を立て直すんだ、自分はいい映画を撮るんだとまだ力んでいましたからね。携帯電話やパソコンばかりいじっていないで、どんどん相手にぶつかって、恋愛してほしい。この世にはチャンスがたくさんあるはずです」

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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