牡丹社事件と「水に流す」知恵

政治・外交

平野 久美子 【Profile】

互いに耳を傾ける努力をしないと歴史認識のギャップは埋まらない

翌日、私は県内にある六堆客家文化園区を見学に行ったのだが、客家の古い神事の展示の前で足が止まった。それは、悪い霊を追い払うために、廟(びょう)で使うお札や祈祷(きとう)紙、文書の類いを燃やした後、その灰を川へ持ち寄って「水に流す」行事だ。過去のわだかまりや悪い習慣などが水によって浄化され、新しい生活を始める生気が人々に宿る……この説明を読んで、神道の「おはらい」や日本の行事「ひな流し」が重なった。私たちは遠い祖先から共通の知恵を与えられた隣人同士。和解できぬはずがない。

互いに耳を傾ける努力をしないと歴史認識のギャップは埋まらない。双方が未来に向けて前向きの意見交換を重ねることが大切だ。

今回の話し合いを実現するために、何人もの地元の方が協力をしてくれた。処長をはじめとする台湾側の誠実な態度に感謝をしたい。そして、心に沈殿している悲しみ、痛み、を乗り越える大きな勇気を持って、屏東県にやってきたN氏に敬意を表したい。願わくば、宮古島の皆さんが屏東県牡丹社郷の方たちと草の根レベルの交流を繰り広げてほしい。すでに石垣島から訪問団が訪れているが、当事者の宮古島の市民が現地に来てこそ和解の意味が深まる。さらにいえば、宮古島に、牡丹社事件の記念碑を建ててほしい。地元に比べたら圧倒的に情報量の少ない内地からの観光客に、事件の史実と和解の事実を知らせるためにも。

バナー写真=台湾屏東県の牡丹社事件紀念公園(撮影:平野 久美子)

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ノンフィクション作家。出版社勤務を経て文筆活動開始。アジアンティー愛好家。2000年、『淡淡有情』で小学館ノンフィクション大賞受賞。アジア各国から題材を選ぶと共に、台湾の日本統治時代についても関心が高い。著書に『テレサ・テンが見た夢 華人歌星伝説』(筑摩書房)、『トオサンの桜・散りゆく台湾の中の日本』(小学館)、『水の奇跡を呼んだ男』(産経新聞出版、農業農村工学会著作賞)、『牡丹社事件・マブイの行方』(集広舎)など。
website: http://www.hilanokumiko.jp/

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