台湾にできて日本にできないのはなぜか——台湾の同性婚禁止違憲判断を考える

社会

野嶋 剛 【Profile】

日本も「欧米とは事情が違う」を言い訳にできない

シンポジウムで注目されたのは、2人の報告にあった「性別平等教育法」のことだ。台湾では2004年に同法が施行され、学校教育の中で、年間かなりの時間を割いて性差別をなくすための授業が行われる。

同法の施行から10数年が経過し、今の台湾社会でLGBTや同性婚を支持する人々は、この法律で育った世代が中心になっている。日本では、性同一性障害について教育現場で配慮するような文科省通達はあるが、制度的にLGBTを取り上げるには至っていない。根拠法がないため、対応が個々の学校や教員に任せられているのが現状だ。

婚姻における性の中立化は欧米の専売特許であり、日本には関係ないという認識が強かった日本に、台湾の「決断」が与える影響は大きい。

台湾のLGBT対応が何でも素晴らしいというわけではなく、先進的とも言い切れない部分もある。企業ではLGBT対策の取り組みはなく、地方自治体にも対策はほとんどない。カミングアウトする議員もゼロだ。

これに対して、日本では地方自治体の条例などで定めるところも多い。議員のカミングアウトもあり、LGBTに関する書籍も活発に出版されている。

ただ、同性パートナーシップ制は渋谷区や世田谷区などでの導入で日本が先を行っていたが、台湾でも急速に広がり、日本では制度利用者がまだ120組程度なのに対し、台湾では2000組以上に達し、あっという間に追い抜かれた。

鈴木教授はこう指摘する。

「日本と台湾はお互いが進んでいる点と進んでいない点がまだら状態になっているが、婚姻の平等化について政治的論点とすることに成功したことで日本よりはるかに先に進んだ形となった。台湾の実例を使って、欧米先進国だけを手本としてきた明治維新以来の脱亜入欧型の法学の在り方に新風を吹き込み、『欧米とは事情が違う』という言い訳を通用させないようにしたい」。

バナー写真=撮影:野嶋 剛

この記事につけられたキーワード

台湾 同性婚 LGBT

野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

このシリーズの他の記事