『この世界の片隅に』台湾公開から考える異文化社会との付き合い方

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酒井 亨 【Profile】

感動は呼んだが、配給会社のPR不足

7月28日の台湾での一般公開後、9月15日までの上映期間中、筆者は台北市と台南市で5回鑑賞した。客の入りは悪いというほどではないが30人程度。そして上映後の雰囲気では感動した人もいるようだったが、そこそこといったところだった。

台湾の『この世界の片隅に』のパンフレット(撮影:酒井 亨)

台湾国立「国家電影中心」の統計によれば、9月5月現在で台湾全土における興行収入累計は、約888万元(1元3.8円、約3350万円)。

日本アニメ映画の中で人気があった『SAO』(約5500万元)、「泣ける映画」として『この世界の片隅に』と対比されることが多かった『聲の形』(別の資料によると約6500万元)と比べると、6から7分の1の規模だ。だが、メジャーなはずの『妖怪ウオッチ』最新作は526万元だったことを考えると、決して悪い数字ではない。だが空前のヒットとは言い難い。

その原因について、原作漫画の台湾翻訳版に序文を寄せたマンガ・アニメ研究家の蘇微希はこう指摘している。

「観客の感動を呼んだのは間違いない。知り合いにも後で号泣していた人が多かった。だが配給会社のPRが、一般人の関心をあおるものではなかった」

蘇が言うには、『君の名は。』が台湾の興行収入が日本映画首位の2.5億元となり、ハリウッド映画大作が常に日本映画の上位より1桁多い興行収入を稼ぐのは、「PRが派手」だからだ。『君の名は。』は「日本で2016年のトップ。あの宮崎駿以来の大ヒットメーカー」という振れ込みだった。

もちろん、筆者が思うには、『この世界の片隅に』は商業性を目指さないからこその良さがあるし、それが制作側のポリシーでもある。そして物事の理由は一つだけとは限らない。

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金沢学院大学基礎教育機構准教授。1966生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。台湾大学法学研究科修士課程修了。アジアの政治、経済、文化に関する研究に加え、近年は日本のアニメ文化とその影響力について調査している。著書に『アニメが地方を救う! ? - 聖地巡礼の経済効果を考える -』(ワニブックスPLUS新書、2016年)がある。

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