キョンシーから台湾妖怪まで——日本人視点で読み解く台湾ホラー映画ブーム

文化 Cinema

栖来 ひかり 【Profile】

民俗学、集団意識とアイデンティティー

座敷童で有名なのが、日本を代表する民俗学者・柳田國男による『遠野物語』だ。この中で紹介された日本古来の妖怪・かっぱやてんぐ、座敷童は、ほとんどの日本人が知っているといっていい。

西洋的に物事を解釈し海外に目が向けられていた明治期にあって、柳田の目は岩手県の「遠野」という非常にローカルな地方へ向いた。アメリカ人の研究者、ロナルド・A・モースは、著書『近代化への挑戦―柳田國男の遺産』で、柳田の学問の目的とはすなわち、日本人に共通する感覚や記憶から伝統的根源を探し、日本の国民的一体感を確立することにあったと述べている。

つまり、妖怪や方言から「日本人とは何か?」を突き詰めようとしたのが、柳田の日本民俗学であった。だとすれば、台湾における今の「台湾妖怪」「台湾語ばやり」を始めとしたローカルブームも、台湾人的な「国民的一体感」を求める動き、そして「台湾人とは何か」という思索の発露といえるのかもしれない。

そう考えると、これからの台湾におけるエンターテインメントにおいて、台湾人意識、台湾本土目線はヒットの大きな鍵を握る、そんな予感がするのである。

バナー写真=©紅衣小女孩公司

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台湾在住ライター。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)、台日萬華鏡(2021年、玉山社)。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story

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