キョンシーから台湾妖怪まで——日本人視点で読み解く台湾ホラー映画ブーム

文化 Cinema

男尊女卑の伝統

台湾人の山に対する恐怖心もそうした共通記憶に当たるといえそうだ。台湾では山で起きる事件が少なくない。例えば台北の景色が一望できることで有名な象山の隣にある虎山でも何人かが失踪しており、「虎山は人を喰(く)う」としてニュースになったのを見たことがある。昔は、山に入れば原住民の出草(首狩り)に遭う危険性もあったし、亜熱帯気候ならではの毒蛇や毒虫も多く、至る所に生えているクワズイモも毒性がある。台湾の山の入り口に大抵ある大きな廟は、台湾人の「山」に対する畏敬の表れといえそうだ。

©紅衣小女孩公司

もう一つ、物語の肝は、映画のテーマである「母と娘」の関係だ。映画の中では母の娘に対する思い、そして娘の母に対する思いが、登場する女性たちによって繰り返し描かれ、紅衣小女孩の正体もまた、母親に捨てられ魔物となった少女であることが明かされる。

台湾の出生事情として、中華圏では男児を産むことを大事にする傾向があり、台湾も例外ではない。日本の出生人口の男女比率の平均は女児1に対して男児が1.05で、生物学的な比率とほぼ同じである。これに対し、台湾は多いときで男児が1.14に達したこともある。出産前の性別診断で女児と分かった場合に出産しないよう人工的に処置したことが考えられ、女児に対する罪の意識から生まれたものが、「赤い服を着た少女」という都市伝説となったのではないだろうか。

ちなみに、日本の妖怪にも座敷童(わらし)がいる。かつて地方で、貧しい故に口減らしのために「間引き」されて死んだ子供が正体だという説がある。白い服の座敷童は吉祥を呼び、赤い服の座敷童は災いの前触れだとする地域もあり、不思議と台湾の都市伝説と一致するのである。

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