知られざる「チョウ大国」——世界が注目する台湾の自然生態

文化

集団越冬する神秘のチョウ

最後に、集団で越冬する珍しい存在について述べておきたい。集団越冬は世界でもメキシコと台湾だけで見られる。メキシコはオオカバマダラ、台湾はルリマダラと呼ばれる。

ルリマダラ(撮影:片倉 佳史)

ルリマダラ類は4種で構成され、夏季は全島各地に点在しているが、11月頃から翌年3月頃までは寒さを逃れ、高雄市茂林区に集団移動して越冬する。移動のピーク時には毎分1万頭が飛来するという。チョウの越冬は珍しくないが、これだけの個体数が集団で越冬するケースは世界的にも珍しい。

ルリマダラの羽を広げた時の大きさは4~8センチ程度で、前羽の裏側が紫色をしている。羽を動かしていると、鱗粉(りんぷん)が太陽光線を浴びて反射し、淡い紫色から鮮やかな紫色、そして深紫、さらに時には青く光る。

ルリマダラ類は越冬中、ほぼ毎日、朝9時から夕方5時頃まで盛んに活動するのが特色だ。午前中は日光浴や吸水などを行う。河原や水たまりに下りて集団吸水することもあり、2月頃にはマンゴーなどの花で吸蜜する様子も見られる。

3~4月には北に戻っていくが、その距離は100キロを軽く超える。

チョウの生態を守る努力

ルリマダラ類の集団越冬にもここ数年で大きな変化が生まれている。山林開発によって数は激減し、温暖化現象による植生の変化、新しい道路の建設など、さまざまな形で脅威に晒(さら)されている。

中でも2004年、越冬を終えたルリマダラたちが北に戻るルート上に、高速道路が建設されたことは深刻な事態を生み出した。高速道路を走る自動車によって発生した気流にチョウが巻き込まれ、大量死するようになったのである。

こうした事態を受け、生態保護を訴える市民が運動を起こした。行政も素早く対応し、07年には防護網が設置された他、毎年3~4月下旬までは、毎分あたりのチョウの個体数に応じて、外側車線の約500メートルを封鎖することを決めた。、自動車の通行を制限し、チョウを優先的に通過させたのだ。

車両の通行制限を伝える看板

移動経路を守るために道路を封鎖するのは世界でも例を見ず、注目された。生態保護の効果も大きく、ルリマダラ類は増加傾向にあるという。こうした取り組みは欧米や日本でも注目され、話題となった。

ルリマダラに限らず、生態を守る努力は今も続けられている。また、最近はチョウに対する社会的関心も高まり、自然と共存する生き方を模索する人々も増えている。台湾が誇る自然の神秘と、そこに関わる人々の動き。これは台湾が自らを世界にアピールする上で大きな財産と言えるのではないだろうか。

バナー写真=提供:片倉 佳史

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