日本人よりも「日本人」だった台湾人——追悼・蔡焜燦さん

政治・外交

野嶋 剛 【Profile】

「日本人よ、胸を張りなさい」と言い続けた蔡焜燦さん

蔡焜燦さんは「台湾に残っている日本」を日本人に向けて語った。そして、日本の統治が台湾社会にどれほどのプラスの面を与えたかを力説し、「日本人よ、胸を張りなさい」という例の名文句でわれわれを鼓舞した。戦後の植民地統治=悪という単一的な歴史観に慣れきった多くの日本人には、台湾の人からこうした声を聞くことは衝撃的であり、目を見開かれる思いを与えた。

蔡焜燦さんは、台湾においては成功したビジネスマンの一人だったが、日本においては「老台北」であり、台湾を訪れた日本人に優しくも厳しい「蔡焜燦学校の名校長」であった。享年90歳。司馬遼太郎さんは「蔡焜燦さんの履歴を聞くだけで、台湾の戦後経済史を学習することができる」と述べているが、その言葉通りの見事な一生だった。ご冥福をお祈りしたい。

バナー写真=台湾歌壇の創立50周年記念大会に出席した蔡焜燦氏、2017年4月23日、台湾台北(時事)

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ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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