『BRUTUS』台湾特集表紙問題:台湾人が不満を感じた理由

文化

栖来 ひかり 【Profile】

日本人が台湾に感じる懐古趣味に注意

栖来ひかり氏提供

さて、『BRUTUS』の表紙から離れるが、昔の台湾をよく知る日本人が、「昔の台湾はもっとめちゃくちゃでパワーがあって面白かった」とか「今の台湾はきれいになって面白くない」と言うことに、私は疑問を感じてきた。

日常生活を「快適・健康・便利」に暮らしたいのは人の常だと思う。それが未発達なところを「面白い」と思うのは個人の勝手ではあるが、実際に不便と思いながら暮らしている人に「変わらないでいてほしい」と要求するのは理不尽なことでしかない。同様に「昭和を感じる」「懐かしい」「癒やされる」というのも個人的な感覚で、そう解釈された側にとっては「いや、べつにそうありたいと思っているわけじゃない」と受け止める例は少なくないと思う。

実際に今の台湾でも、近頃の日本の雑誌の台湾ブームを「ポストコロニアリズム」「オリエンタリズム」の延長、もしくはその変形として捉えている研究者がいて、台湾人の誰しもがそういう問題意識を持っているわけではないが、かなりデリケートな事柄であるのは確かだ。

ではなぜ、台湾人はそこまでこの問題にデリケートになっているのか。

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栖来 ひかりSUMIKI Hikari経歴・執筆一覧を見る

台湾在住ライター。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)、台日萬華鏡(2021年、玉山社)。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story

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