「トランプの壁」よりも強力?ネット封鎖の「習近平の壁」

政治・外交

古畑 康雄 【Profile】

ネットにも秩序が必要と主張する中国政府

高い壁の中にユーザーを囲い込み、他国からの情報を隔絶する――。中国当局はこうしたネット政策を、「ネット主権」として正当化する言論を展開している。

2015年12月に浙江省烏鎮で開かれた「世界インターネット大会」で、習近平は「4つの原則」を提唱し、そのトップに「ネット主権の尊重」を挙げた。習は国連憲章が定めた主権平等の原則は国際関係の基本準則であり、その原則と精神はネットの空間にも適用されるべきであると主張した。16年11月には「ネット空間の主権と国家安全の維持」を目的とした「ネット安全法」を制定。この3月には、ネット空間の国際交流と協力をうたった「ネット空間国際協力戦略」を発表した。VOA(ボイス・オブ・アメリカ)は同戦略の目的について、サイバー攻撃やサイバーテロを防ぐことを口実に、中国は国家によるネット管理強化について国際的な合意を目指しており、陸地や海洋の主権の概念をネット空間へと広げようと狙っていると指摘している。

こうした「ネット主権」を主張する根拠に中国当局がしばしば用いる表現が「ネット空間は『法外之地(無法地帯)』ではない」というものだ。15年12月、中国のネット管理部門、国家インターネット弁公室主任の魯煒(当時)は「ネット空間は無法地帯ではない。ネット空間も現実社会と同様、自由とともに秩序が必要だ」と述べ、先述の「戦略」でも、外務省の担当者は「ネットを無法地帯にしてはならない」と同様の表現を使った。

次ページ: 反日一色だった10年前とは違う

この記事につけられたキーワード

SNS 中国

古畑 康雄FURUHATA Yasuo経歴・執筆一覧を見る

1966年東京生まれ。共同通信社記者。89年東京大学文学部卒業後、共同通信社に入り、地方支社局を経て97年から北京の対外経済貿易大学に語学研修留学。2001年から同社の中国語ニュースサイト「共同網」を企画、運営(16年5月まで)。著書に『習近平時代のネット社会』(勉誠出版、2016年)『「網民」の反乱―ネットは中国を変えるか?』(勉誠出版、2012年)など。

このシリーズの他の記事