ニッポン女子の就活事情

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上原 良子 【Profile】

専業主婦は富裕層の証?

若い女性の専業主婦志向が強まっている、という記事をしばしば目にする。しかし本当にそうなのだろうか。この点について聞いてみると、「専業主婦は退屈そうでイヤ、面白い仕事を続けたい!」という声が多数で、専業主婦になりたいという学生はいまや珍しい。「家事手伝い」に至ってはもはや死語だ。確かに大学時代に勉強よりも遊びやバイトに忙しい学生ほど、卒業後、仕事に熱中し「バリキャリ」(高学歴でキャリア重視の働く女性をこう呼ぶ)となっている傾向が強い。

母親世代では、専業主婦は極めて現実的かつ実現可能な将来像であった。しかし近年、男性の所得は明らかに下降傾向にあり、妻が働くことはもはや珍しくはなくなっている。「専業主婦? なりたい! もちろん経済的余裕があればね」—。若い世代が発する「専業主婦」という言葉には、富裕層の妻というニュアンスが強いように思われるのだ。専業主婦は高額所得者の家庭にのみ許された憧れの存在、もはや手の届きにくい存在となっているのかもしれない。

学生に中長期的なキャリアプランを描いてもらうために、目標とする30代、40代像について毎年質問するようにしている。すると、さまざまな仕事に加えて、できれば高額所得者のパートナーを見つけ、妻として家事・育児をこなし、やりがいのある仕事を追求する、という女性像を描く学生が多い。もちろん「いくつになっても素敵な女性でいたい」。まさにスーパーウーマンだ。

仕事と家庭、両立は可能か?

しかしスーパーウーマンになるには障害も多い。希望する会社の支援は整っているのか、実際に両立している先輩はいるのか。また親世代の協力は得られるのか。また地方出身者の場合、親が地元に帰ってきて欲しがる一方、魅力的な都会生活も捨てがたい。しかし東京の生活コストは高すぎる。「東京に残るためには、一人暮らしができる賃金がもらえる総合職じゃないと」という固い決意で就活に臨む学生も少なくない(卒業後も家賃の仕送りを受けている、という幸せな例外もあるが)。そのため、東京ではなく地元での就職を選択する学生もいるが、地方での求人数の少なさや待遇の悪さ、何より男性優位の保守的な風土に戸惑うことになる。

企業や国が女性の働きやすい環境を整えるべきであるのは言うまでもない。しかし現時点では、こうした急速な変化の中で、女子の就活には、男子以上に、戦略的であることが求められるのだ。(2016年5月1日 記)

バナー写真:東京大学の卒業式に出席した卒業生=2016年3月25日、東京都文京区(時事)

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上原 良子UEHARA Yoshiko経歴・執筆一覧を見る

フェリス女学院大学国際交流学部教授。1965年福岡生まれ。専門はフランス国際関係史。1989年東京女子大学文学部史学科卒業。1994年パリ第一大学大学院現代国際関係史DEA修了。1996年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。吉田徹編『ヨーロッパ統合とフランス、偉大さを求めた1世紀』(法律文化社、2012年)、田中孝彦・青木人志編『〈戦争〉のあとに/和解と寛容』(勁草書房、2008年)等に、ヨーロッパ統合やグローバリゼーションにおけるフランスの政治・外交に関する論考を発表。

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