日本の家族よ、どこへ行く——「多様化」 それとも「バーチャル化」?

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パートナーなしで「親密欲求」を満たすには

現代日本では、結婚する人が減り、恋人がいる人も減少している。つまり、パートナーがいない独身者が増大している。では、彼らは、親密欲求をどのようにして満たしているのだろうか。親密欲求は、「コミュニケーション」「ロマンティックな感情」「性欲」の3つに分けることができる。現代日本では、これらの欲求を「バーチャルな家族」で満たす傾向が強まっている。

親と同居して関係がよければ、親がコミュニケーションの対象となる。そして、同性の友人とのコミュニケーションも活発である。SNSの発達が、たとえ日常的に会えなくても、気心の知れた友人との交流を可能にしている。さらに、私が「家族ペット」と呼んだように、ペットを家族であるかのようにみなして生活し、親密感情を満足させている独身者も多い。

次に、ロマンティックな感情は、いわゆる、アイドルやスター、更には、ゲームやマンガのキャラクターなどに「はまる」ことで満たす人が多い。いわゆる、2次元、2.5次元と呼ばれる世界で、疑似恋愛を体験するのである。更に、男性は、キャバクラ、メイドカフェ、ナイトクラブ、“JK産業”(女子高生とお金を払って散歩するなど)など、女性に対するロマンティックな感情を満足させる商業的な場が整備されている。つまり、一時的なロマンティックな気分をお金で買うことができるのである。そのような場では、まるで、恋愛関係があるようなコミュニケーションが展開される。

性欲に関しては、男性の場合は、ポルノがAV機器やネットの普及で簡単に見て楽しめるようになった。そして、風俗産業と呼ばれる「性的サービス」を利用する男性も多いのである。

バーチャル家族、バーチャル恋愛の拡散

このように、恋人がいない独身者の増大に伴って、性的なパートナーがいなくても、親密欲求を満足させる「装置」、つまり、バーチャル家族・バーチャル恋愛が大発展を遂げているのが、今の日本の姿なのである(恋人のいない若年未婚者は約1000万人、うち400万人は恋人が欲しくないと思っている独身者である)。

香港のメイドカフェを訪れた際の筆者(左)

もちろん、恋人がいる人、既婚者でもこのようなバーチャルな関係を楽しむ人々もいる。夫婦でペットを飼ったり、宝塚にはまる既婚女性、ナイトクラブに通う既婚男性たちは、従来から存在していた。彼らは、リアルな関係にプラスアルファするものとして、このようなバーチャルな関係を楽しむ人が多かった。しかし、今増えているのは、リアルな関係が欠如したまま、バーチャル家族・恋愛のみで満足する人々なのである。

そして、バーチャルな家族や恋愛を提供する装置は、アジアを中心として全世界に輸出されている。いわゆる「ネコ・カフェ」は全世界に広まっている。そして、アジアを中心に、日本のアニメやアイドル、そして、メイドカフェといったものが受け入れられている。

多様化は起きるのだろうか

ただ、日本でも、多様な形の家族の試みは始まっている。2015年、東京都渋谷区でパートナーシップ条例が制定され、同性カップルの公的な登録の道が開けた。シェアハウスなど血縁がない人同士の共同生活も珍しいことではなくなっている。妻が働き、夫が主に家事をするという「専業主夫家庭」も注目されるようになった。さまざまな家族の形が社会で受け入れられるようになれば、リアルに「好きな人と一緒に生活したい」という気持ちを優先したいという若者が増えるかもしれない。

このままバーチャル家族化が進むのか、あるいは、ライフスタイル革命が進み多様でリアルな家族関係が復活するのか。今、日本の家族のあり方は転換期を迎えている。

(2016年2月8日 記)
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