日本の家族よ、どこへ行く——「多様化」 それとも「バーチャル化」?

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山田 昌弘 【Profile】

恋人もあまり欲しくない

性革命に関しても、その効果は限定的である。未婚者の同棲率は、2010年でわずか1.6%、未婚の出生率も2.4%(2014年)と欧米に比べて著しく低い。その代わり、妊娠先行型結婚(いわゆる“できちゃった婚” [shotgun marriage])が結婚の約20%(未婚出生の約10倍)と多くなってくる。これは、未婚者の性関係は自由になったが、子どもは結婚して育てるという伝統的な家族規範が強いことを意味している。

更に、21世紀に入り、若者の恋愛行動自体が消極化している。未婚者で恋人がいる未婚者の割合は低下し、恋人をもちたいという人も減っている。そして、セクシュアリティに関心がない若者が増加しているという調査結果も出ている。

表2 恋人との交際について

独身者の交際実態
(20-39歳の独身者)
恋人有り 恋人なし
交際経験有り 交際経験無し
2010年調査 36.2% 37.9% 25.8%
2015年調査 35.6% 40.8% 23.3%
恋人がいない独身者の交際意欲=恋人が欲しいか *()内は2010年の数値 男性 61.5%
(67.3%)
20代 58.1%
30代 66.1%
年収400万以上
79.7%
400万未満
59.9%
女性    60.1%
(70.3%)
20代 57.6%
30代 64.8%
年収200万以上
70.7%
200万未満
52.1%

資料:内閣府「結婚・家族形成に関する意識調査」報告書

その結果、日本では、結婚して「性別役割分業型家族」を形成することができる若者が減少する一方で、恋人もいない未婚の若者が増大している。これが、日本の少子化、未婚化の実態である。2010年で30~34歳の未婚率は、男性47.3%、女性34.5%に達した(2010年国勢調査)。

先に述べたように同棲率は極めて低く、恋人がいる割合も30%程度である。そして、未婚者の多く(20~34歳の未婚者の8割)は、親と同居している。経済的に親に支えてもらっている人も多く、親が亡くなった後は、経済的困難に直面し、孤立する独身者が今後急増すると考えられる。

家族の多様化を妨げる同調圧力

なぜ、日本では「性別役割分業型家族」へのこだわりが強く、家族の多様化が進まないのだろうか。

一つは、制度的、慣習的、意識的に、「性別役割分業型家族」への同調圧力が強いことが挙げられる。日本の正社員の労働慣行は、「専業主婦がいる男性」を前提に作られている。会社に献身し、長時間労働を甘受して家庭を運営するためには、労働者の裏側に家事・育児を全て引き受ける主婦がいることが当然視されている。年金や健康保険など、社会保障制度も「性別役割分業型家族」をモデルとして作られているので、それ以外の形態をとることは大変不利になるのである。

そして、日本社会は、「世間体」を重んじる意識が強い。大多数の人と違う家族形態をとると、「変わった人と思われる」ことを覚悟しなくてはならない。例えば「専業主夫」は好奇の目に晒される。また、家事や育児を他人に任せることは未だ非難の対象になる。夫婦同姓を強制している民法に対して合憲判決(2015年12月最高裁)が出され、夫婦別姓を選択することを認めなかったことは、日本の固定した家族のあり方への同調圧力が強いことが背景にある。

最後に指摘したい理由は、「カップル」よりも「親子」関係を重視する意識である。これが、私のいうパラサイトシングル(親同居未婚者)の背景にあり、また、「どんな形でもよいから、性的なパートナーを求めたい」という欧米で家族の多様化の原動力となったカップル形成意欲を削いでいるのである。

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山田 昌弘YAMADA Masahiro経歴・執筆一覧を見る

1957年東京生まれ。86年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。2008年4月から中央大学文学部教授。専門は家族社会学、感情社会学、ジェンダー論。著書に『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書、1999)、『少子社会日本 もうひとつの格差のゆくえ』(岩波書店、2007年)、『家族難民』(朝日新聞出版、16年)、『底辺への競争』(朝日新書、17年)、『日本で少子化対策はなぜ失敗したのか』(光文社新書、20年)、『新型格差社会』(朝日新書、21年)など多数。

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