闇に消えた子どもたち—「居所不明児童」と児童虐待

社会

情報共有はいまだにFAX頼み——児童相談所の限界

この少年のケースに限らず、行方がわからなくなった子どもを捜すために、全国の児童相談所は「CA情報システム」を使う。CAとは “Child Abuse” 、つまり居所不明や児童虐待に関する情報を児童相談所同士で共有するシステムだ。ところがCA情報は、いまだにFAX送信という旧式の方法が取られている。深刻な虐待、極端な生活困窮といった緊急性が高い事案であっても、FAXで情報のやりとりをするというお寒い状況なのである。各児童相談所が送受信する情報はデータベース化されておらず、それどころか届いたFAX用紙の管理も十分にはできていない。

そもそも児童相談所では、人的にも制度的にも警察のような捜索はむずかしい。本来なら警察の協力を得るべきところだが、現場の職員を取材すると「警察との連携がむずかしい」という声が上がる。居所不明となった子どもの捜索を依頼するには、「個人情報保護」や「事件性の有無」を慎重に判断せざるを得ない。仮に捜索を依頼しても、警察側から拒まれることもあるという。

実際、警察の出動まで時間を要したケースは少なくない。2014年に神奈川県厚木市で発覚した事件では、アパートの1室に1人残された男児が白骨化遺体となって発見された。男児は入学予定の小学校に一度も姿を現さない居所不明児童だったが、学校や教育委員会、児童相談所は所在を確認できないままだった。この事件では、担当の児童相談所による「ケースの見落とし」という失態もあり、警察への捜索依頼まで実に8年もかかっている。

何の支援も届かぬまま「消された」子どもたち

さらに、相変わらずの縦割り行政で、行政内部の情報共有や連携も進んでいない。2012年に愛知県で起きた児童虐待事件では、両親が4歳の女児を衰弱死させ、7歳の男児は就学させないまま軟禁状態に置いていた。男児が入学するはずだった小学校では「居所不明児童」として不就学扱いにしたが、実際には同じ市内で生活し、父親は役所の子育て支援課窓口で子ども2人分の児童手当を受け取っていたのだ。

この場合、学校や教育委員会が男児の不就学について危機意識を持ち、市内の行政各部署と情報共有をしていれば、すぐにも問題は発覚しただろう。それは幼い子どもたちの命と生活を救うことにつながったはずで、こうした事件を取材するたび、忸怩たる思いに駆られる。

最後に、数字の「トリック」について指摘したい。「学校基本調査」で報告された居所不明者の累計数が約2万4000人と前述したが、先のホームレス少年がカウントされていなかったように、現実にはこの数字が実態を表しているとは到底言えない。むしろ、数字に上がっていない、なんら実態把握されていない子どもたちが相当数いるだろう。

住民登録が消除され、教育や医療、福祉につながれず、貧困や虐待といったリスクを負う子どもたち。彼らはどこかで元気に暮らしているのか、それとも人知れず葬られてしまったのか、残念ながらわからない。現行の調査方法や行政システムでは追跡できず、その実態は闇に包まれたままなのだ。

「消えた子ども」は、決して自らの意思で消えたのではない。大人の事情に翻弄され、社会のはざまに突き落とされ、何の支援も届かないまま「消された」のである。

救いを求める子どもたちを見つけ出すために、今こそ現実的な対策が必要だ。そして、一人でも多くの人が、「消えた子ども」の問題に着目してほしいと思う。

(2016年1月18日 記)
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