羽生結弦、世界歴代最高得点を連発

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コーチも仰天するほどの野心貫く

ミスの修正にとどまらず、失敗したスケートカナダのSPよりも4回転を1つ増やすと決めたのは「もっと挑戦したいという気持ちが強くなった」から。一段抜かしで高いレベルに足を踏み入れると決意した羽生は、指導するブライアン・オーサーコーチにひと言、「やります」と告げた。

これにはオーサーコーチも目を丸くした。

「ユヅとは将来的には4回転を2本組み込むという話をしてきたが、ここでもう2本やるのかとビックリした。私自身はもう少しコンサバティブな変更にしようと考えていたのだが、ユヅが野心的だった」

こうして羽生は練習拠点のカナダ・トロントに戻ると、すぐに新たな構成でトレーニングを始め、11月下旬、長野に入った。そして、NHK杯のSPで初めて4回転ジャンプを2つ入れる構成を演じ、成功させた。

NHK杯での羽生は喜々とした様子を隠さず、無邪気な笑みを浮かべ、こう言った。

「自分自身がこのプログラムでワクワクできた。失敗を恐れることなく、久しぶりにワクワクしながら滑った。まだ完璧ではないけれど、すべてのジャンプで着氷したので、そのうれしさを久々に味わえて良かった」

羽生結弦:ソチ五輪後の主な戦績

2014年3月 世界選手権(さいたま) 優勝 282.59
11月 中国杯(上海) 2位 237.55
NHK杯(大阪) 4位 229.80
12月 GPファイナル(バルセロナ) 優勝 288.16
全日本選手権(長野) 優勝 286.86
2015年3月 世界選手権(上海) 2位 271.08
10月 スケートカナダ(レスブリッジ) 2位 259.54
11月 NHK杯(長野) 優勝 322.40
12月 GPファイナル(バルセロナ) 優勝 330.43

(nippon.com編集部作成)

成長実感、目指すは「絶対王者」

オーサーコーチを仰天させるほどの野心を貫いた陰には、羽生にとって永遠のヒーローと言えるロシアの英雄、エフゲニー・プルシェンコ(五輪2大会で金メダルを獲得)の姿が見えてくる。

これも挑戦者魂の象徴とも言える「和」のテイストでジャッジの心をつかみ、空前の得点を出した羽生は、目指すものとして「絶対王者」という言葉を出しながら、こう説明した。

「僕にとってはプルシェンコさんが完全な絶対王者。そのオーラや雰囲気であったり、その強さであったり(が素晴らしく)、いつも正確にジャンプを跳んで、その中でも独特の雰囲気にあふれている」

幼い頃から憧れていたプルシェンコの名を挙げた後は、さらに目を輝かせながら言葉を継いだ。

「僕の中であこがれていたのは彼独特の雰囲気。それぞれの選手にそれぞれの色があると思うが、やっと僕自身の色を見つけられたかなと思っている。プルシェンコさんになりたいとは思わないが、彼のような唯一無二の存在になれるように努力したい」

力強い言葉の裏には、独自の個性を完璧に表現し尽くしたことによる自信が見て取れた。

年内の国際大会を終えてスペインから帰国した羽生は、「自分自身の今年1年を漢字一文字で表すとしたら?」という問い掛けに対し、「成」と答えていた。そして、そのこころを、「成長の“成”」であり、「将棋の駒の“成る”」からの想起でもあると説明した。

自分だけの色を手にし、成駒のように新たな能力を心身に宿らせながら前進していく21歳。「絶対王者」への道は確かに見えている。

バナー写真:世界歴代最高となる合計322.40点で優勝し、金メダルを手に笑顔の羽生結弦(ANA)=2015年11月28日、長野・ビッグハット(時事)

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