今も抱かれる望郷の念——湾生と台湾

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片倉 佳史 【Profile】

現在も紡がれている日台の絆

月に一度刊行されている台湾協会報。台湾協会の資料室では貴重な資料・文献を閲覧することができる

現在、国内においては台湾からの引揚者を中心に組織された一般財団法人台湾協会がある。ここは引揚者の親睦を図ることを目的とし、文献の収集、日台交流の促進など幅広い活動を続けている。各種資料の閲覧なども可能だ。

終戦から70年、今年は各地で数多くの戦没者や罹災者の慰霊が行なわれた。台湾協会の根井冽(ねい・きよし)理事長はこういった式典やイベントへの協力も積極的に行ない、告知にも力を入れている。

湾生に等しく言えることは、台湾を想う熱い気持ちの強さである。過去のみならず、現在、そして未来についても、日本と同じか、時にはそれ以上に台湾を愛し、その将来を案じている。『植民地台湾の日本女性生活史』の著者である竹中信子女史(東京都在住・台北州蘇澳出身)は以下のように語っていた。

蘇澳出身で日本統治時代の蘇澳について調査を続ける竹中信子女史。郷土研究の第一人者として、慕われている。故郷を愛する気持ちはゆるぎないものがある

「私たち湾生にとっての台湾はかけがえのない故郷。敗戦で切り離されてしまいましたが、台湾を想う気持ちは全く色あせていません」

現在、日台の人的交流は年々盛んになっており、相互の往来は500万人に達しそうな勢いである。また、今年は台湾を訪れる日本の修学旅行生も3万人に達する見込みだという。台湾を旅した人々が現地で受けた親切に感動し、台湾ファンになることは珍しくはない。台湾には湾生をはじめとする先人が残してきたものが数多く残り、現地の人々がそれを大切なものとして守ってくれている。その様子を目の当たりにすると、誰もが感動を禁じ得ない。

10月16日には台湾人によって製作された湾生についてのドキュメンタリー映画『湾生回家(邦題・湾生帰郷物語)』が公開される。戦後生まれの台湾人が日本統治時代の半世紀、そして湾生について、どのような見方をしているのか、興味が尽きないところである。台湾と日本の結びつきについて、もう一度、深く考えてみたいところである。

(2015年10月5日 記)

タイトル写真:台北市建成小学校の卒業生で組織された建成会の会報(撮影:片倉佳史)

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台湾在住作家、武蔵野大学客員教授。1969年神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部在学中に初めて台湾を旅行する。大学卒業後は福武書店(現ベネッセ)に就職。1997年より本格的に台湾で生活。以来、台湾の文化や日本との関わりについての執筆や写真撮影を続けている。分野は、地理、歴史、言語、交通、温泉、トレンドなど多岐にわたるが、特に日本時代の遺構や鉄道への造詣が深い。主な著書に、『古写真が語る 台湾 日本統治時代の50年 1895―1945』、『台湾に生きている「日本」』(祥伝社)、『台湾に残る日本鉄道遺産―今も息づく日本統治時代の遺構』(交通新聞社)、『台北・歴史建築探訪~日本が遺した建築遺産を歩く』(ウェッジ)、『台湾旅人地図帳』(ウェッジ)、『台湾のトリセツ~地図で読み解く初耳秘話』(昭文社)等。オフィシャルサイト:台湾特捜百貨店~片倉佳史の台湾体験

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