今も抱かれる望郷の念——湾生と台湾

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片倉 佳史 【Profile】

台湾に留まるか、日本に戻るか

1945(昭和20)年10月、米軍の管理下に入った台湾総督府は戸籍調査を実施している。これによると、内地人の総人口は38万4847名(軍人は含まず)で、男性20万26名、女性18万4821名となっている。戸数は10万6201戸だった。

興味深いのは「今後、内地(本土)へ帰りたいか」、「台湾に留まりたいか」というアンケートが実施されたことだ。乳幼児を除く32万3269名が対象となっている。

結果は日本本土に戻りたいと答えた者が18万2260名、台湾に留まりたいと答えたものが14万1009名となっている。回答者は男性が15万4749名、女性が16万8520名で女性のほうが多い。このうち男性は6万7654名が台湾に留まることを希望している。

徳島県在住の冨永勝氏宅。故郷である花蓮への思いは強く、今も独自に研究を続けている。書庫には台湾関連の書籍が並び、壮観なかぎりだ

言うまでもなく、当時は情報がなく、敗戦後の日本がどうなっていくのか、そして、台湾がどのような道を歩むのかを予測するすべはない。自らを取り巻く境遇がどのように変化していくのか、誰一人として想像ができない状況だった。

同時に、故郷を棄てて台湾にやってきた人や、台湾の地で生まれ育ち、本土とは縁を持たない内地人も少なくはなかった。こういった人々が抱いた不安の大きさは想像に難くない。この調査を受けた人々は例外なく複雑な思いだったに違いない。

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台湾在住作家、武蔵野大学客員教授。1969年神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部在学中に初めて台湾を旅行する。大学卒業後は福武書店(現ベネッセ)に就職。1997年より本格的に台湾で生活。以来、台湾の文化や日本との関わりについての執筆や写真撮影を続けている。分野は、地理、歴史、言語、交通、温泉、トレンドなど多岐にわたるが、特に日本時代の遺構や鉄道への造詣が深い。主な著書に、『古写真が語る 台湾 日本統治時代の50年 1895―1945』、『台湾に生きている「日本」』(祥伝社)、『台湾に残る日本鉄道遺産―今も息づく日本統治時代の遺構』(交通新聞社)、『台北・歴史建築探訪~日本が遺した建築遺産を歩く』(ウェッジ)、『台湾旅人地図帳』(ウェッジ)、『台湾のトリセツ~地図で読み解く初耳秘話』(昭文社)等。オフィシャルサイト:台湾特捜百貨店~片倉佳史の台湾体験

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