対ロシア外交に独自色強める安倍首相の意欲と誤算

政治・外交

プーチン・ロシア大統領訪日の可能性はまだ消えていない。欧米とともにウクライナ問題で対ロ制裁が続く中、安倍首相は独自路線を探っている。その目算とは?

対米批判に歴史カード持ち出すロシア

包囲網を崩すには弱い部分を狙えという鉄則通り、対中制裁に元々消極的だった日本に照準を絞り、一点突破を図ったのが天安門事件後の中国の対応だった。安倍首相が志向する対ロ独自外交に着目した今回のロシアの対日外交にも、ロシア包囲網を突破しようとする思惑が滲み出てくる。

6月、独エルマウG7サミットの閉幕数日後、プーチン大統領は同サミット参加国イタリアに飛んだ。レンツィ首相との日伊首脳会談のためだった。ロシアは、西方(欧州)で最も弱い部分としてイタリアを狙って包囲網に風穴を空け、東方では日本を包囲網突破の舞台に仕立て上げようとしているのではないか。

5月の東京滞在中、ナルイシキン下院議長が口にした「米国の原爆投下=人道に対する罪」発言——そこからは、対米歴史カードを駆使、戦後70年に引っ掛けて日本の国民世論に反米ナショナリズムを掻き立てて日米分断を図ろうとする思惑が感じられる。同議長は、2014年12月に行われたロシア歴史学会の幹部会で、米国の原爆投下(ヒロシマ、ナガサキ)について軍事的合理性はなく、検証と併せて「法的評価」が必要と強調した(国営イタル・タス通信)。プーチン大統領は、モスクワから極東を眺望し、日本列島の彼方に超大国アメリカを見据えているのではないだろうか。

安倍首相が意欲を示すプーチン大統領訪日の年内実現は、父・晋太郎が果たせなかった夢——北方領土問題解決への思い入れが写し絵のように重なってくる。だが、ウクライナ危機が進行するこの間、国内政局や両国を取り巻く環境の劇変と併せて、それに伴う日ロ両国の外交戦略目標のズレと安倍・プーチン関係の限界も見えてきた。

カバー写真=2014年11月、北京APECで首脳会談を行う安倍首相(左)とプーチン大統領(提供・時事)

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