対ロシア外交に独自色強める安倍首相の意欲と誤算

政治・外交

プーチン・ロシア大統領訪日の可能性はまだ消えていない。欧米とともにウクライナ問題で対ロ制裁が続く中、安倍首相は独自路線を探っている。その目算とは?

中国流「弱い輪を狙え」を想起させる対日外交

では、ロシアが、これほどまで熱心に日ロ関係の進展を働き掛ける意図、思惑はどこにあるのだろうか。

当然、エネルギー分野を始めとする日本との経済協力の拡大に大きな狙いがあるのは確かだろう。また、安全保障の観点からすれば、宿敵米国と対峙するには、中国との連携が必要になる。しかし、経済力、人口力にものを言わせて影響圏を中央アジア、極東に拡大しようとする中国は、ロシアにとっては常に脅威感が付きまとう油断ならぬ隣国なのだ。このため、ロシアが日本カードを、対中外交を進める上での有効なカードになり得ると位置付けていても不思議ではない。

が、ここで、より留意しておかねばならないのは次の点だ。

ロシアが、現在の局面で全力を注いでいるのは、ウクライナ問題での対ロ制裁によって構築された欧米による包囲網を突き崩すという目標だ。

例えば、プーチン側近の一人、前述したナルイシキン下院議長が日本訪問の際に残した言葉を思い起こすといい。「(日本は対ロ制裁を)続ければ続けるほど、日ロ関係に与える損害は大きくなる。このような政策は終わりにすべきだ」

北方領土問題での進展が欲しかったら、対ロ制裁を解除せよ、という恫喝にも聞こえる揺さぶりだと言えるが、揺さぶりは、このナルイシキン発言に止まらない。行動が加わる。8月22日には、メドベージェフ首相が択捉島で開催する若者の愛国心育成を目的にしたサマーキャンプに出席するため、北方領土を訪問した。

ロシア側の一連の言動は、天安門事件(1989年)後、西側諸国が科した対中制裁に中国側が取った手法を想起させる。その時、中国の民主化運動弾圧を理由に科した西側の制裁包囲網を打破するため、中国は、日本を「西側の対中制裁の連合戦線の最も弱い輪」と見て、日本側に陰に陽に揺さぶりをかけた。中国副総理兼外相・銭其琛の回顧録には次のように綴られている。

「(日本への働き掛けは)西側の制裁を打破する際におのずと最もよい突破口となった。当時、われわれは日本がこの方面で一歩先んじていくように仕向けていた」。

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