「1965年体制形骸化」に突き進む韓国、その深層とは

政治・外交

ロー・ダニエル 【Profile】

「憲法精神、善良な風俗にそぐわず」という韓国の情と論理

人類の歴史には国家の間の戦争やコンフリクトがあり、その過程で勝者と敗者が出てくる。その勝者と敗者が未来に向けて対立関係を清算する取り決めを結ぶと、その取り決めを守るということ(pacta sunt servanda)は国際法および国際秩序の根幹である。

無論、それには例外がある。一つは、その取り決めを結んだ当事者たちが予測できなかった要因による「事情変更」があり、取り決めを守るのが元来の精神にむしろ反する場合(rebus sic stantibus)である。しかし、韓国大法院の判決はこれに当てはまらない。残る理屈は、「強行規範」(jus cogens)である。これは、国際法上、複数の国家による合意でも排除することの許されない「高次の規範」のことである。韓国大法院の判決にこの原則が適用されたことの法的妥当性を是非する能力は私にはない。

しかし、一つはっきりしたのは、韓国大法院が、韓国人徴用工たちの日本での敗訴確定判決を承認することは「大韓民国の善良な風俗、もしくは、その他の社会秩序」にふさわしくないと明言したことである。すなわち、昔の日本企業の強制的行為は、韓国が理解する常識的な「強行規範」に合致しないということである。

盧武鉉(ノムヒョン)時代の判事が主導

韓国大法院判決の法的理屈とは離れて、その判決には腑に落ちない面がある。私は、それを「全員合意体判決」制度を適用しなかったことから感じ取る。大法官14名で構成される大法院では、社会的波及が大きい事案や大法院の既存判決をひっくり返す必要があるときは14名の「全員合意体判決」形式をとる。これによる判決は韓国司法の総意を意味し、政治的意味合いも大きい。

では、戦後アジア経済を構築した日韓の間柄からみて、複数の日系企業を被告とする判決を3名の判事が裁く通常案件の扱いをしたのは妥当なものだったのか。結果として、当件は第1裁判部に回され、主審判事キム・ヌンファン(金能煥)の主導で例の判決が出たのである。その判決が全員合意によるものではないということは、逆に、韓国司法の総意ではないということと解釈できる。

ちなみに、金能煥を大法院判事に推薦・任命したのは、盧武鉉大統領であった。二人は司法試験合格同期だった。また、大法院判事の任期を終えた同氏は、ソウルで自らコンビニエンス・ストア経営に携わった後、大手法律事務所に就職した

かつて、「十年ひと昔」という言葉は、壁で埃(ほこり)を集める古い時計のようなものに対する表現と感じていた。しかし、同じく「十年ひと昔」ではあるが、昨今の日韓関係の豹変を前にした時、私は肝胆に寒さを感じることを禁じ得ないのである。

 

カバー写真=勲一等旭日大綬章を贈られる韓日議員連盟会長だった朴泰俊・浦項総合製鉄名誉会長(提供・時事)

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政治経済学者、アジア歴史研究者、作家。韓国ソウル市生まれ。米国マサチューセッツ工科大学で比較政治経済論を専攻して博士号(Ph.D)取得。香港科学技術大学助教授、中国人民銀行研究生部客員教授、上海同済大学客員教授、一橋大学客員研究員、国際日本文化研究センター外国人研究員、京都産業大学客員研究員などを経て、北東アジアの政治経済リスクを評価する会社Peninsula Monitor Group, LLCを2015年7月に東京で設立。日本での著作として『竹島密約』(2008/草思社、第21回「アジア・太平洋賞」大賞受賞)がある。『「地政心理」で語る半島と列島』が藤原書店から出版予定。

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