アラビア語の“すみません”が引き起こす悲劇!?
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言語を勉強していると、普段何げなく使っている言葉の背後に深い意味があるのに感動することがある。反対に、何気ない言葉が深い誤解を生むこともあり、言葉の難しさを痛感することもある。言葉はひとつの意味だけで簡単に割り切れるものではなく、複数の意味を持つのはもちろんのこと、口調などその言葉の使い方により意味が変わってくるものなのだ。
「ごめんなさい」と「気にしないで」はまったく違う
アラビア語の「マアレーシュ」。
この言葉は、日本人の間で最も誤解されやすい言葉のひとつではないかと思う。語源を説明すると長くなるので省略するが、直訳すると「それには何もない」という意味を持ち、エジプトでは「ごめんなさい」を少しフランクに言うときや、同情的に「残念でしたね」「お気の毒」「気にしないで」などの意味で使われている。
I’m sorryと同じように、例えば次のように使用される。
AがBの足を踏んでしまう。
A:「マアレーシュ(ごめんなさい)」
C:「最近嫌な事ばかり起こるんだよね」
D:「マアレーシュ(大変だね。気にしないで。お気の毒に。)」
ところが、日本人の間で「マアレーシュ」が単なる「気にしないで」の意味だけで解釈されている場合が少なくない。上記のAとBのように、エジプト人に足を踏まれたのに「マアレーシュ(気にしないで)」と言われ、日本人が憤慨したなどという話をよく耳にする。
私も実際に、あるエジプト人と日本人の言葉の誤解によるトラブルを仲介したことがある。エジプト人の言い分は、「この日本人はなかなか謝ろうとしない!」であり、日本人の言い分は、「謝ったのにしつこい!」である。両者の話をよく聞くと、日本語の勉強を始めたばかりのエジプト人が、「すみません」を「Excuse me」の意味だけで解釈していたことによる誤解が原因であった。
日本人は「すみません」と謝ったのだが、エジプト人にしてみれば「すみません」は「Excuse me」であり、「I’m sorry」を意味する「ごめんなさい」で謝るべきだと主張していたのだ。「すみません」には、「I’m sorry」の意味もあると説明するとしぶしぶ納得したが、「言い方に反省の色が見えなかった」などと怒りがなかなか収まらない様子であった。
話し方や態度で変化する言葉の魔力
確かに謝罪の言葉も、その言い方や態度で全く意味を成さないことがある。わが家でも、妻が「はいはい、すみませんね~」と私をあしらうような謝り方をするときもあるが、それ以上何か言おうものなら、逆切れされるのは目に見えている。
こういうときに、誰かが私に「マアレーシュ」と慰めてくれれば良いのに。
そうそう、マアレーシュにはそういう使い方もあるのである。
話がそれてしまったが、言語を習得するには、文化や習慣を理解することはもちろん、言葉にはひとつの意味だけではなく様々な意味があることや、どんなに美しい言葉も口調によってはまったく違って受け取られることを忘れてはならないと思う。
言葉は生きていると言われているが、まさしくその通りだと思う。時代によって変化することもあれば、相手や状況によって受け取り方も変わるのである。
それゆえ言語は難しくもあり、おもしろくもある