儒教観に対する日中韓の違い

政治・外交

儒教の立ち位置が異なる中韓と日本

一言で言えば、中国、韓国の二国と日本は、儒教に関する立ち位置が異なっている。相対的に見れば、中韓文化は共通して儒教を古典的倫理観の核心としているが、日本文化においては、儒教は最も重要な核心にはなっていない。儒教を人生観、生活観、幸福感、世界観に加えて、生活の知恵としても基準にしてきた中国と韓国に対し、日本では儒教というより「思いやり」などといった価値観が顕著に表れている。

儒教への関わりは、儒教が中国で生まれた思想であるゆえに、中国人による、中国人のための、中国人の生活思想という性格をもともと有している。そんな中、儒教は東アジアに広まったが、なかでも李氏朝鮮王朝は儒教を国教とし、16世紀に李退渓と李栗谷の大儒が出て儒教を大成させたとも言われる。このため朝鮮半島は「儒教の模範生」とされ、「小中華」を自負した。

韓国制作の時代劇ドラマなど韓流文化が現在、東アジアを席巻しているが、そうした状況は中国国内でも例外ではない。なぜか。儒教的考え方に貫かれたストーリー展開が中国人には身近に感じられるからだ。『チャングムの誓い』(中国での視聴率は27%という)にしろ、『イ・サン』にしろ、儒教的価値基準が反映された台詞があふれていることが要因だろう。

中国で21世紀になって再評価された儒教

中国では社会主義の下、儒教は一時期、批判や排斥の対象となった。しかし、それは中国人のアイデンティティーにかかわる思想であり、その排除は中国が中国でなくなることを意味するという考えが広まったことから、儒教は21世紀に入ってから再評価された。今や中国国内の義務教育の現場では、儒教や伝統文化を参考にする教育が盛んに進められているし、国として儒教を中国文化の普及の軸として、世界中に発信している。中国文化に対する世界各国の理解の促進などを図る孔子学院はその象徴で、2010年10月までに96の国と地域において、大学に付属するなどの形で332校が設置された。分校に相当する孔子課室は369校にのぼっている。ちなみに孔子学院は2004年に中国で設立され、同年11月に初めての海外学院が開校されたが、その場所は韓国ソウル市だった。

経済成長にも影響を与える儒教思想

1980年代、元駐日米国大使のライシャワー氏を中心とした西洋の研究者たちは、亜州四小龍(※1)における高度経済成長の要因の一つは、儒教思想の活用であるという見解を述べた。また、当時、中国経済は足踏みしていたが、彼らは、その足踏みの原因について、儒教思想と伝統文化への反逆を挙げた。東アジアを俯瞰したこのような指摘は、今日まで基本的な認識となっていると考えられよう。

この視点を長期的に実証してきたと言える事例が、特に2000年から見られる伝統文化重視の復活に伴われた中国自身の経済成長であり、「四小龍」の人間開発指数(※2)が軒並み0.9近くをマークしているという事実(2011年)である。

一方、日本はどうか。冒頭に述べたように、儒教が生活体系に組み込まれていた中国、韓国と異なり、日本の儒教は知識の対象にとどまっていた。幕末・明治維新を境に西洋化へ容易に切り替えが進んだのもそのためと理解されよう。(2012年11月5日 記)

(※1) ^ アジアで経済発展を遂げた4地域の総称。韓国、中国(台湾)、香港、シンガポールを指す。

(※2) ^ 人間開発指数(HDI:HumanDevelopment Index)は、各国の人間開発の度合いを測る新たなものさしとして発表された、包括的な経済社会指標。各国の達成度を、長寿、知識、人間らしい生活水準の3つの分野について測ったもので、0と1の間の数値で表される。1に近いほど、個人の基本的選択肢が広い、つまり人間開発が進んでいることになる。(参照:http://www.undp.or.jp/publications/pdf/whats_hd200702.pdf

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