「拖拉庫」「里阿卡」から「女優」「激安」まで——台湾語に含まれる日本語の移り変わり

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米果 【Profile】

子供のころを振り返れば、筆者の周囲で話されている台湾語の中には、多くの日本語が含まれていた。戦後の台湾で日本文化が再び開放されてからは、さまざまな交流により若い世代が使う中国語にも日本語の語彙(ごい)を使う現象が発生している。

興味深い日台の新語彙

台湾語の日常会話では、由来が分からない言葉が使われることもある。例えば1970年ごろに、日本からやってきたカツオ風味の調味料が主婦の間で大流行したことがあった。その調味料を売る店のおばさんは「これはla-shi-mo-toだよ」と言っていた。そこで私の家ではずっと、カツオの粉末を「la-shi-mo-to」と呼ぶものと思っていた。日本語の五十音を学んだ頃、改めて「la-shi-mo-to」のパッケージを見た。「味の素」の「ほんだし」だった。しかし、「Ajinomoto」や「hondashi」がどうして「la-shi-mo-to」になるのか?ずっと疑問だったが、日本人の友人に聞いたところ「だしのもと(Dashinomoto)から来たのではないか?」と教えてくれた。うーむ、突然にして悟りを開くことができた!

蒸し米料理の米糕(ミーガオ)や、肉どんぶりの肉燥飯に添えられる黄色いダイコンの切れ端は「ta-ku-hann」だ。元の発音は「たくあん(Ta-ku-An)」だったはずだが、長い時間をかけて台湾語化し、さらに地方によって発音の違いも加わって、今ではどのような変化をたどったのかを調べることは難しいだろう。

台湾語の中で比較的古くから使われている日本語の語彙はまだある。人々は賃金のことを「月給」と言っている。金銭の拠出は「寄付」、飲食店では料理を「注文」し、病院に行けば「注射」をされる。おじいさんやおばあさんは孫に、「しっかり勉強しなさい。さもなければ『落第』するよ」という。人の心情を語る時には、日本語を使って「気持」と表現する。ちなみに発音も「kimochi」だ。今では台湾の多くの人が使う語彙になり、漢字で「奇蒙子」と書かれる場合がある。

「游」または「尤」という姓の人のあだ名は決まって「阿不拉(アブラ)」だ。日本語の「油」の音読みが同じだからだろう。名前が「武」だったら、あだ名は「Ta-Ke」となる場合が多い。「ka-tsu」だったら「勝」の字に由来し、「Masa」と呼ばれる人だったら、元の文字は「正」か「政」のはずだ。私が会社勤めを始めた当初、ある上司は「Te-Ru-Mi」と呼ばれていた。後になって、彼女の名の「照美」の日本語読みと知った。

台湾では一時期、日本の映画やドラマ、歌曲の輸入が禁止されていた。そのため、台湾語の日本語との交わりや日本語からの借用は、上の世代を境に一時期停止していた。日本の作品が開放されてからは、ドラマや漫画、ゲーム、アニメ、そしてインターネットを通じての交流に伴い、若い世代が用いる中国語の中に、日本語の語彙が徐々に出現してきた。例えば野球で使用される「胴上」や「見逃」だ。他にも「邪魔」「素人」「宅」「女優」「激安」「放題」と言った日常用語もどんどん普及しつつあるようだ。

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コラムニスト。台湾台南出身。かつて日本で過ごした経験があり、現在は多くの雑誌で連載を持つ人気コラムニストとして活躍中。日本の小説やドラマ、映画の大ファンでもある。

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