ガンプラの聖地・日本に商機はあるか : 英ゲームズワークショップ社
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フィギュアと卓上型ロールプレイングゲームのパイオニア的存在である英国のゲームズワークショップは、欧米では多くのファンを獲得しているが、日本での知名度はそれほど高くない。日本に進出して30年あまりを経た今、同社を取り巻く状況が変わりつつある。
2019年5月、ノッティンガムに本社を置く同社は、バンダイと提携し、自社のキャラクターをベースにした大型アクションフィギュアと、「ガシャポン」用のカプセルトイを開発・販売することで合意したと発表した。今回の提携は、日本での市場拡大を目指すゲームズワークショップの積極的な姿勢の表れであり、アニメ『機動戦士ガンダム』が生まれた国で一段の飛躍が期待できそうだ。
新たな方向性
ライセンス契約によりバンダイが制作するのは、18センチ大の「ウォーハンマー40,000スペースマリーン」シリーズのアクションフィギュアだ。「スぺ―スマリーン」はSF世界を舞台にしたゲーム「ウォーハンマー40,000」のキャラクターで、人類の帝国を守る最新鋭の超人兵として人気を誇る。ネット上の関連サイトやおもちゃショーなどのイベントでは、フィギュアの大きさや、関節が動くこと、武器を持ち替えられることなど、ゲームズワークショップのオリジナルのフィギュアとはコンセプトが異なることが大いに話題となった。
しかしバンダイは、オリジナルが持つ世界観を壊すことのないよう、「スペースマリーン」シリーズのデザイナーであるジェス・グッドウィン氏に詳細なアドバイスを求めていくとしている。
「ガシャポン」用のカプセルトイは、5種類を展開予定だ。こちらはオリジナルに忠実というよりも、カプセルに入る5センチサイズにギュッと圧縮してデフォルメしている。カプセルは中身が見えないタイプなので、どのフィギュアが出てくるかは、開けてのお楽しみだ。
ゲームズワークショップは知的所有権の保護が徹底していることで知られているため、バンダイとの提携に驚いた専門家もいたようだ。しかし、日本支社長のジェームズ・ロング氏は、バンダイ以外の日本のメーカーや、米国のフィギュアメーカー・ファンコとも提携に乗り出していることを挙げ、「ここ数年は、門戸を開いて、新しいことへの挑戦を始めている」と述べた。
バンダイと提携することになったのは、両社がお互いに興味を持ったからなのだという。バンダイは日本市場でゲームズワークショップの製品に注目し、一方で、ゲームズワークショップは、カプセルトイのようなアイデアを検討していた。提携協議が始まってみると、バンダイが得意とするアクションフィギュアの制作がテーマとなり、結果的にライセンス契約につながった。バンダイとの交渉の大部分は英国本社が担ったが、東京支社もそれに関わることができたとロング氏は誇らしげに言う。
スケジュールは明らかにはなっていないが、バンダイはフィギュアを全世界で発売予定だ。ゲームズワークショップのミニチュアは、自分でペイントすること自体が重要な遊びの要素になっているが、バンダイが販売するフィギュアはあらかじめペイントが施されている。ただ、ロング氏は「たとえ色が塗ってあっても、やりたい人は上からペイントしたり、自分の独自のタッチを加えたりするだろうけどね」と笑った。
店舗開設
ロンドンで1975年に設立されたゲームズワークショップは、1987年頃、日本市場に参入し、独立系の小さな小売店でミニチュアなどを販売していた。その後、市場の開拓で2000年代の初めには、東京の神保町、中野などサブカルチャー好きが集まる地域に直営店9店を運営するまでに成長した。
ゲームズワークショップの「生命線」とも言える、膨大なルールブックや解説書の日本語版が制作されたことで、その後の数年間は、日本市場は順調に拡大した。ところが、2010年、世界的な事業再編の一環で、日本では2つの直営店と小売店数店だけ残して事業を縮小することが決まったのだ。さらに英国本社の上層部は、翻訳チームの解散も決めたため、店舗や販売店は以後、英語版を頼りにするしかない状況に追い込まれた。
このような大方針転換にも関わらず、マニア心をくすぐるフィギュアを支持し続けてくれるファンもいた。ただ、ビジネスは盛況とはほど遠い状況だった。日本語版の解説書が無いため、潜在顧客の中でも、とりわけ重要な若年層にアピールすることができなくなったのが痛手だった。
再出発
米国本部の小売り担当だったロング氏は、2015年、日本の市場拡大というミッションを託されて来日した。東京支社はわずか5人の小所帯で、直営店の開設と、取扱店の拡大に奔走することとなった。
米国では90前後あった直営店舗数が日本には2つしかなく、その落差に驚きはしたものの、現場での感触はなじみのあるものだったとロング氏は振り返る。「店に来てくれる客は、フィギュアを組み立てたり、ペイントしたり、ゲームをするのが大好きな人たちばかりだった」。常連客や代理店と接していると、英語の情報ばかりで、日本語での情報が得られないことが問題だとすぐに気づいたという。
東京チームがまず取り組んだのは、「ウォーハンマー40,000」から誕生した卓上型ロールプレイングゲーム「カルスの裏切り」のルールブックを日本語に翻訳することだった。「ウォーハンマー40,000スペースマリーン」関連製品の売れ行きは好調だったものの、日本のファンの心をとらえたのは、フィギュアのペイントやコレクションであって、ゲームそのものへの関心は低かったと、ロング氏は苦笑いする。しかし、フィギュアから興味を持った人向けに、卓上型ゲームでフィギュアを戦わせる独自の楽しみ方を紹介することで、売れ行きは順調に伸びていったという。
この大成功を機に、日本語版のスターターセットの拡充をめざして英国本社との話し合いが進められた。まず手始めとして、看板商品である「ウォーハンマー40,000」シリーズの最新版を日本語版でも公開することが決まった。さらに、「スペースマリーンヒーローズ」という日本限定モデルも開発された。単体でもセットでも購入できるこのフィギュアは大ヒットとなり、2019年後半には第3弾の発売も予定されている。
しかし、日本語版の作成にはそれなりの苦労があった。それは、シリーズごとに存在する独自の世界観や特殊な言い回しを、日本語にどう置き換えるかという言葉の壁だ。「昔の翻訳は、もう残っていなかった」(ロング氏)。そこで翻訳チームは、シリーズのオリジナルイメージに忠実でありながらも、日本語としても違和感のない訳語を模索し続けた。こうして何度も議論を重ねた結果、チームはなんとか壁を乗り越えることができたという。
立川市の直営店の店長・白根龍治氏は、日本語版がいかに重要であるかを力説している。新しい客が店に来るきっかけは、フィギュアをペイントすることに魅力を感じるからなのだが、次第に、物語やキャラクターの背景をもっと知りたいと、ウォーハンマーの世界観にハマっていくのだという。「ウォーハンマーはこの30年で、信じられないほど膨大な物語を紡いできた。日本でこれに匹敵するようなゲームはそれほどないと思う」と話している。
さらなる勝利を目指して
バンダイとの提携以前にも、ゲームズワークショップは他社とコラボをしてきた歴史がある。スペースマリーンヒーローズを発売した際には、フィギュアなどを手がけるマックスファクトリー社(東京・秋葉原)に販路拡大を依頼。さらに、等身大フィギュアや合金トイで有名なプライム1スタジオ(東京・中央区)ともライセンス契約を結んでいる。
しかし、ゲームズワークショップの認知度を一気に高めたのは、創刊50年を迎える『ホビージャパン』のウォーハンマー特集号(2018年春)だ。登場するキャラクターの背景や相関、ペインティングのノウハウなどを詳しく解説しているほか、ウォーハンマーマニアへのインタビューなど盛りだくさんの内容を95ページのフルカラーで掲載。ロング氏は「特集号をきっかけに、興味を持った人が店に足を運んでくれるようになった」という。
現在、関東に6店舗、関西2店舗の直営店があるが、今後、さらなる出店を計画している。ロング氏によると、日本での事業は英国本社の制作スタジオと足並みをそろえているという。新商品やシリーズものの最新作が出る際には、日本語版も同時進行となる。
日本でのビジネスが軌道に乗るまでには時間がかかったが、ロング氏は成功に自信をのぞかせる。「未来はきっと明るい。そう信じている」と力強く語った。
取材・文:ジェームス・シングルトン(ニッポンドットコム)
(原文英語。バナー写真:2019年の東京おもちゃショーに出展されたバンダイのアクションフィギュア「スペースマリーン」の試作品。撮影=ニッポンドットコム編集部)