トランプ氏勝利、日本社会に衝撃走る
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「米国第一」のスローガンを強く打ち出し、孤立主義の色が濃い過激な発言を繰り返してきたドナルド・トランプ氏が米大統領選に勝利し、日本社会に大きな衝撃が走った。トランプ氏はキャンペーン中、日本などの同盟国に米軍の駐留経費全額負担を求めるなど安全保障政策の見直しを示唆し、経済面では環太平洋連携協定(TPP)に反対するなど保護主義を鮮明にしてきた。日米関係が変革に向かうのは避けられず、先行きへの不安感が増している。
経済界、保護主義へ強い懸念
「保護主義や反グローバリズムの台頭は世界の経済活動の停滞を招くことになりかねない。TPPの発効のためには日米の批准が不可欠であることを踏まえ、トランプ新大統領が現実的な判断をされることを期待したい」。日本商工会議所の三村明夫会頭は9日、トランプ氏を強くけん制するコメントを発表した。経団連の榊原定征会長も「現実的な政策を期待する」と強調。「グローバル経済の中で生きることが米国の利益にかなうというのは理解しているだろう」とも述べた。
TPPへの反対のみならず、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しなど高関税政策を掲げてきたトランプ氏の勝利に、経済界の懸念は強い。TPPがアベノミクス推進に必要だとしてきた安倍政権にも大きな打撃で、今後は成長戦略の見直しが迫られる。
日本経済新聞は10日の社説で「高関税などの保護主義的な政策をとれば、むしろ(米国)庶民の生活を悪化させる。(製造業の雇用悪化に対しては)技術変化やグローバル化で打撃を受けた人をどう支えるかに政策の焦点をあてるべきだ」と指摘。読売新聞の社説は「雇用創出や経済成長を実現するというトランプ氏の公約は根拠に欠けている。実際にTPPの合意を破棄し、NAFTAを見直せば、米国の威信低下と長期的な衰退は避けられまい」と批判した。
日米同盟も再構築か
安倍晋三首相はトランプ氏の勝利を受け、「次期大統領と手を携えて、世界の直面する諸課題に共に取り組んでいきたい」との祝辞を出した。この中で首相は「日米両国は普遍的価値の絆で固く結ばれた揺るぎない同盟国」「日米同盟は国際社会が直面する課題に互いに協力して貢献していく『希望の同盟』」だと強調。このメッセージは、同盟国を軽視するようなトランプ氏の姿勢を意識してのものに違いない。
日本の外務・防衛当局は、アジアへのリバランス政策を重視していたクリントン氏が次期大統領になることを期待していたため、トランプ氏の勝利に衝撃を受けている。国内のメディア報道によると、東・南シナ海を巡る対中政策や核兵器開発を続ける北朝鮮への対応でも、これまで緊密に連携してきた関係が維持されるのか、政府内で不安の声が上がっている。
トランプ氏はこれまで公職についたことがなく、政府・与党に人脈のパイプがほとんどないことも不安を増幅させる要因となっている。安倍首相はペルーで19、20日に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議前に米国に立ち寄り、17日にニューヨークでトランプ氏と会談する予定だが、この慌ただしい動きからも日本政府の動揺がうかがわれる。
日本経済新聞は10日の社説で、トランプ氏が主張する駐留米軍の費用負担の問題について「日本の安全保障が米軍に依存しているのは事実であり、ある程度の負担増はやむを得ない。新政権の関心をアジアに向けさせるためにも、早目に交渉の席に着くことが現実的だろう」と踏み込んだ。読売新聞も「新政権の方針を慎重に見極めながら、同盟の新たな在り方を検討すべき」と指摘した。
「内向き」で国際社会も激変?
トランプ氏に対するもう一つの不安が、米国が今後「内向き」な姿勢を鮮明にし、地球温暖化や難民、貧困問題など国際社会が抱える課題解決、国際秩序形成への関与を薄めるのではないかという懸念だ。
毎日新聞は社説で「米国は単独で今日の地位を築いたのではない」「同盟国との関係や国際協調を粗末にして『偉大な国』であり続けることはできない。その辺をトランプ氏は誤解しているのではないか」と指摘。朝日新聞は「米国の役割とは何か。同盟国や世界との協働がいかに米国と世界の利益になるか。その理解を早急に深め、米外交の経験と見識に富む人材を最大限活用する政権をつくってほしい」と注文をつけた。
文・石井 雅仁(編集部)
バナー写真:米大統領選でトランプ氏勝利を報じた号外を手にする人々=2016年10月9日夜、東京・新橋駅前(つのだよしお/アフロ)