熊本地震の被災地で支援を待つ一人ひとりのために 相談支援専門員の支援活動
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地震から1カ月。支援を待つ人は多い。
4月16日の熊本地震の本震発生から1カ月。ライフラインの復旧が進み、一時は18万人を超えていた避難者数も1万人にまで減少した。休校していた熊本県内の公立学校も5月11日までに全て授業を再開。仮設住宅の建設も始まり、被災地は復興に向けて動き出したように見える。しかし、行政機能にも影響が出るほどの被害に遭った自治体もあり、介護が必要な高齢者や障がい者など、いわゆる「災害弱者」への支援が遅れている地域もある。
熊本県の被害状況(5月15日現在)
死者 | 49人 |
関連死 | 19人 |
行方不明 | 1人 |
負傷者 | 1664人(うち重傷者348人) |
避難所数 | 235カ所 |
避難者 | 1万434人 |
住宅被害 | 全壊2847棟 |
半壊5324棟 | |
一部損壊 3万2408棟 | |
断水 | 約2400戸 |
(熊本県まとめ)
熊本県内で支援活動を行う、日本相談支援専門員協会(NSK)の菊本圭一代表が説明する。
「避難所では、障がい者やその家族たちは肩身の狭い思いをしています。たとえば、自衛隊が避難所で風呂を設置しても『他の方の迷惑になっては』と入浴をあきらめる方も多いのです。こうした本人から言い出しづらい要望を聞き取って、近くの介護施設で入浴支援を受けられるように手配するなど、要援護者のニーズに応えるために行政や施設との調整が必要です」
「自ら要望を言い出せない人々を助けたい」
相談支援専門員は、障害者総合支援法に基づいて、障がい者の地域生活において適切なサービスを受けられるよう相談支援活動を行う福祉の専門職。東日本大震災の際も、公的な福祉サービスに大きな影響が出た地域で、生活に必要な支援を受けることができなくなった障がい者のために、新たな受け入れ先や介護ボランティアの確保などに努めてきた。今回も菊本さんらスタッフは地震発生直後から熊本に入り、自治体の福祉担当者らと協力して、支援を必要とする方を対象に訪問聞き取り調査を行い、個々の事情に合わせたサービスを届けるために活動している。5月11日までに約2000件の調査を終えた。
「地震発生から1カ月たった今、住まいの確保が非常に重要です。障がいによって必要な条件も違いますから、それぞれの方に合う住まいを探すこと、そして新しい住まいでの支援サービスを整えることもわれわれの仕事です。先日も、ずっと個室のある避難先を探していた盲学校に通うお子さんがいるご家族に、合志市の転居先を紹介できたのですが、ご自宅からの距離が遠いこともあり、通学が難しくなってしまいました。本人の学校に通いたいという希望をかなえるために、今度は、送迎を支援してくれる移動ボランティアを探しているところです。学校が再開したと明るいニュースが報じられていますが、一方では特別支援学校に通う子供たちなど、通学が困難というケースも多く残っており、できるだけ早くサポートしていきたいと思います」
熊本地震の被災地でNSKの担当者が聞き取ってきた情報は、防災危機管理論や災害情報論が専門の長坂俊成・立教大学教授(一般財団法人協働プラットフォーム代表)が開発した災害情報システムに蓄積される。東日本大震災では、複数の団体が別々に活動したため、同じ被災者が何度も聞き取り調査を受けることになり、負担が大きくなったという。この反省を踏まえて、今回はITの導入で、効率的な情報共有で的確な支援が可能になった。また、現地での活動の力強い味方となっているのが、タレントの清水国明さんのNPO「河口湖自然楽校」から提供されたトレーラーハウスと日本財団の支援で購入できたキャンピングカーだという。
「被災地に近い場所に宿泊場所を確保できる上に、事務所としても活用できる。益城町など自治体の機能にまで大きな影響が出ているような場所では、スタッフが集まることができる拠点があって本当に助かっています。トレーラーハウスとキャンピングカーがあることで、さらにきめ細かい支援活動を行っていきます」
こうしたNPOやボランティアなどの民間団体による支援の一元化を図り、行政との円滑な連携の拠点として「日本財団災害復興支援センター熊本支部」が4月26日に熊本県庁の近くに開設された。梅谷佳明センター長は「NPOの方に事務所代わりに使っていただき、情報共有や意見交換の場として、支援活動の活性化に貢献したいです。また、企業にもボランティア派遣を呼びかけ、今後も変化する被災地のニーズに応えていきたいです」と話していた。
取材・文=河崎 美穂(ニッポンドットコム編集部)
撮影=土師野 幸徳
バナー写真:小学校の校舎を借りて再開した学校に向かう益城町の中学生(5月9日、時事)