ノーベル物理学賞に東大宇宙線研の梶田隆章氏 素粒子ニュートリノの質量を実証

科学

2日連続で日本人研究者に栄誉

2015年のノーベル物理学賞は、素粒子ニュートリノの振動を発見した功績で、梶田隆章・東京大学宇宙線研究所所長(56)とカナダ・クイーンズ大学のアーサー・マクドナルド名誉教授(72)に贈られることが決まった。

前日の10月5日に大村智・北里大特別栄誉教授(80)の医学・生理学賞受賞が決まったばかりで、2日連続で日本人研究者の受賞が決まった。物理学賞としても、2014年の赤崎勇・名城大学教授ら3氏に続く2年連続の受賞。これで日本人(外国籍含む)のノーベル賞歴代受賞者は、24人となった。

素粒子物理学の標準理論見直す発見

梶田氏が実験のまとめ役となった国際研究チームは、岐阜県飛騨市神岡町の地下深くに設けられた観測施設「スーパーカミオカンデ」を使って大気中から飛んでくるニュートリノの様子を観測。宇宙線が地球の大気とぶつかって生じるミュー型ニュートリノが地球を貫通して1万キロ以上を移動する間に別の種類(タウ型)に変身する、「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象を発見し、1998年に学会で発表した。

この発見は、質量(重さ)がないと考えられていたニュートリノに質量があることを実証。宇宙の成り立ちを科学的に解明する際のキーポイントとなる素粒子物理学で、これまでの標準的な理論に大きく見直しを迫ることになった。

梶田氏は受賞決定後に記者会見し、「非常に名誉なこと。純粋科学にスポットをあててくれたことをうれしく思う」と喜びを語った。また、研究が100人を超えるチームのプロジェクトであることを強調。「私の名前は出していただいたが、スーパーカミオカンデ、そしてカミオカンデの研究グループが認められたのだと思う」と話した。

巨大な観測装置が成果挙げる

スーパーカミオカンデのタンク内部。タンク表面に敷きつめられているのが「光電子倍増管」と呼ばれる検出器=岐阜県飛騨市、2006年4月撮影(時事)

「スーパーカミオカンデ」は、地下約1000メートルの鉱山跡に東京大学宇宙線研究所が建設した巨大な観測装置。高さ、直径ともに約40メートルの円筒形タンクに超純水を満たし、宇宙から飛来する素粒子が水と反応して生じる光を検出器でとらえる。世界で最も高い精度を持つ装置として1996年に観測を開始。2001年に破損事故があったが、06年に完全復旧した。

「スーパーカミオカンデ」の前身となる「カミオカンデ」は、2002年のノーベル物理学賞受賞者となった小柴昌俊・東京大学特別栄誉教授が建設を推進。1987年にニュートリノの観測に世界で初めて成功している。

素粒子物理学で世界をリード

梶田氏は1959年、埼玉県東松山市生まれ。埼玉大学理学部を卒業後、東京大学大学院に進み、小柴氏の教えを受けた。1999年に東京大学宇宙線研究所教授となり、2008年から所長を務めている。

日本のノーベル物理学賞受賞者は、梶田氏で11人目。うち7人が素粒子物理学の研究者だ。原子核の陽子と中性子を結びつける「中間子」の実在を理論的に予測した湯川秀樹氏(故人)が、1949年に日本人として初めてノーベル賞を受賞。65年には「繰り込み理論」の朝永振一郎氏(故人)が続いた。

2002年の小柴氏に続いては、2008年に南部陽一郎氏(故人、米国籍)、小林誠、益川敏英の3氏が素粒子物理学の分野で受賞している。

バナー写真:ノーベル物理学賞の受賞が決まり、記者会見する梶田隆章・東京大宇宙線研究所長=2015年10月6日夜、東京都文京区(時事)

東京大学 ノーベル賞