安全保障法制成立——日本の防衛・安保体制の大転換

政治・外交

安倍「安保」の総仕上げ、「集団的自衛権行使容認」を法制化

安倍内閣が最重要課題としてきた安全保障関連法案(安保法制)が2015年9月17日、与野党の激しい攻防の中、19日未明、参議院本会議で採決し可決、成立した。戦後70年、日本の防衛安全保障政策は、「集団的自衛権の限定的な行使」が法制化され、大きな転換点を迎えた。政府は、「平時から有事に至るまで“切れ目のない”安全保障体制が確立され、日本全体の抑止力を向上させることができる」としている。

安倍内閣は12年12月の政権発足以来、国家安全保障会議(NSC)の創設、「防衛計画の大綱」、「中期防衛力整備計画」の改定、武器輸出三原則の見直し、安保情報保全のための「特定秘密保護法」制定を手掛けてきた。今年4月に18年ぶりに改定された日米防衛協力の指針(日米ガイドライン)と合わせて、今回の安保法制により全般的な総仕上げが完了した。

しかし、集団的自衛権の行使容認については、野党、法学者らが「違憲」と猛反発した。安保法制が想定した安全保障上の「存立危機事態」や「重要影響事態」など6つの「事態」については、国会議論では政府答弁が混乱する場面もあり、新聞各紙の世論調査では「政府の説明は分かりにくい」との声が過半数を超え続けた。また、国会周辺では、安保法制法案を「戦争法案」だとする市民、学生らのデモが連日のように繰り広げられた。

険しい東アジア情勢、日本の抑止力を強化

安倍内閣は、安保法制整備の理由について、中国の海洋進出や軍事費の増大、北朝鮮の核・ミサイル開発などを挙げ、険しさが続く東アジアを中心とする安全保障環境の変化を指摘、日本の抑止力の向上の必要性を強調してきた。

このため、戦後長い間認めていられなかった「集団的自衛権」の限定的行使を認め、自衛隊の活動範囲や武器使用基準を緩和した。さらに在外邦人の救出や米艦防護などを可能にした。一方、有事の際の自衛隊派遣については、国会の事前承認を前提とするが、派遣までの国会議論を短縮するなどとしている。

今回提出された法律は、自衛隊法改正など10の改正法を1つにまとめた「平和安全法制整備法」と、新しくつくられた「国際平和支援法」の2法。「平和安全法制整備法」に含まれた10本の法律は表の通り。

表 安全保障関連法一覧

略称 法律名
自衛隊法 自衛隊法
国連PKO協力法 国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律
重要影響事態安全確保法 周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(当初は「周辺事態安全確保法」)
船舶検査活動法 周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律
事態対処法 武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに及び国民の安全の確保に関する法律
米軍等行動関連措置法 武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律
特定公共施設利用法 武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律
海上輸送規制法 武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律
捕虜取扱い法 武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律
国家安全保障会議設置法 国家安全保障会議設置法

野党、「存立危機事態」の認定の曖昧さを追及

しかし、集団的自衛権の行使を可能にし、自衛隊の武力行使を認める「存立危機事態」では、政府と野党間で激しい攻防が繰り広げられた。

「存立危機事態」は、具体的には「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」と定義されている。

ではそうした事態をどのように判断するのか。安倍首相は国会審議の中で「政府が総合的に判断して認定する」と繰り返し答弁した。しかし、野党・民主党の岡田克也代表は「存立危機事態は抽象的で、時の政府が勝手に認定し、自衛隊を送り出し武力行使することになりかねない。民主国家としては許されない」と反発した。

後方支援で自衛隊活動はどこまで容認されるのか

また、国際社会の平和と安全を脅かすような「国際平和共同対処事態」や「重要影響事態」なども大きな議論の的となった。いずれの事態も、自衛隊の武力行使は認められず、例外なく国会の“事前承認”が必要となる。だが、武力行使が認められない中で、自衛隊の活動をどこまで認めるかが焦点になった。

重要影響事態では、自衛隊は必要があれば、米軍以外の外国軍隊への後方支援ができるとしている。政府は後方支援には「武器の提供は含まない」としているが、野党や与党の一部からは、後方支援は「兵站(へいたん)」であり、武力行使の正面と後方は一体で自衛隊が危険にさらされかねないと反対した。

「60日ルール」回避で、野党3党の修正に応じる

安保法制法案が衆議院を可決、通過したのは7月16日。国会の会期末は9月27日で、仮に参議院本会議で議決できなくても60日経過すれば、衆議院で再議決し成立させることができる「60日ルール」の選択肢もあった。

しかし、同ルールの適応は、安倍政権の今後の政局運営に大きな支障を与えかねないと判断。自民、公明両党は元気、次世代、新党改革の野党3党との首脳会談を行い、自衛隊の海外派遣に関する国会承認の強化で合意、「与党だけでの採決」という最悪事態は回避した。

執筆=原野 城治・nippon.com代表理事、2015年9月24日加筆修正。

カバー写真=9月17日、野党の遅延戦術で混乱の内に安保関連法案を採択した参議院平和安全法制特別委員会(提供・時事)

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