東芝「不正会計」の衝撃
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東芝の不正会計を調べてきた第三者委員会(委員長=上田広一・元東京高検検事長)は7月20日、「経営判断として不適正な会計処理が行われた」と断定する調査報告書をまとめた。これを受けて歴代トップ3人が引責辞任、創業以来の危機に発展した。日本を代表する大手企業で発覚した利益水増しの不祥事が、国内外に与えた衝撃は大きい。
歴代3社長が辞任し陳謝
東芝は調査報告書の公表を受けて翌21日、不適正会計処理をめぐって、この10年同社を率いてきた歴代トップ3人(田中久雄社長、佐々木則夫副会長、西田厚聡相談役)が同日付で辞任したと発表した。不正に関与したとされる取締役を含め、辞任した取締役は社長を含め8人におよび、全16人の取締役の半数に達する異例の事態となった。
室町正志会長が暫定的に社長職を兼務し、東芝の経営体制刷新をめざす。新経営陣は8月中旬までには決め、9月の臨時株主総会に諮るが、今後の展開は予断を許さない。佐々木副会長は21日付で、経団連副会長や政府の産業競争力会議の民間議員などの公職も辞任した。
田中社長は記者会見で「今回の報告書を厳粛に受けとめ、株主をはじめすべてのステークホルダーにおわび申し上げる」と謝罪し、質問に答えた。そのうえで「事業の集中と選択を加速させるなど事業構造改革を進め、保有する有価証券や不動産の売却などを行い、資金計画に万全を期す」と語った。
1562億円利益水増し、業績回復装う
6兆5000億円の連結売上高を誇る、国内2位の総合電機メーカー。これまで経団連会長も輩出してきた名門企業に一体、何が起きていたのか。
東芝の不適正な会計処理問題の発覚は、2015年に入ってからのことだ。インフラ事業関連の会計処理などについて証券取引等監視委員会が調査に乗り出し、4月初めには不適切会計を初めて公表した。それ以降も不適正会計の範囲はテレビや半導体、パソコンなどに拡大、こうした事態に東芝の株価は急落した。5月中旬には田中社長が会見で陳謝するとともに、第三者委員会が発足した。
公表された第三者委の報告書によると、東芝の不適正な会計処理は2008年度から2014年度4~12月期まで約7年間にわたり、利益の水増し額は1562億円に上る。この間、経営トップらの要請を含む組織的な関与が明らかとなり、その対象はインフラ部門からテレビ、パソコンまで主要部門のほぼすべてで行われてきた。監査法人への事実の隠ぺいなども行われるなど、巧妙な手口だったという。
「当期利益至上主義」を指弾
こうした不適正な会計処理は、2008年のリーマンショックで落ち込んだ業績の立て直しを迫られた佐々木則夫氏の社長時代を中心に行われた。目標通りの利益を出せない部門に対し、「チャレンジ」と称して必達目標値の実現を強く求めたとされる。その結果、目標達成が難しい現場では、翌期以降の利益の先取りや損失の先送りを行うなど不適切な会計処理が行われた。
米原子力子会社ウエスチングハウスの受注案件でも費用計上を先送りしていた。2013年6月に佐々木氏の後任社長となった田中氏も利益水増し問題を認識し、2015年3月までに解消した事業もあったが、多くの部門で続けてきた。一度行った不適正な会計処理のつじつまを合わせるため、翌期以降もせざるを得なくなる過程が繰り返された。
企業統治も形骸化し機能せず
報告書は、こうした不正を続けてきた原因として、東芝社内が「当期利益至上主義」に拘泥し、目標を必達させるため上司から各現場にプレッシャーがかけられていたが、上司に逆らえない企業風土があったことも背景としている。
また、社内の監査委員会内に財務・経営に詳しい社外取締役がおらず、ブレーキをかけることができなかったことも要因としてある。社外の取締役で経営をチェックする監査委員の中には、利益の先取りなどの不正を認識していた人もいたが、委員会でこれを問題視するなどの形跡はなく、社外取締役による「企業統治(コーポレートガバナンス)」が形骸化し、機能していなかった。
東京証券取引所は今年、取締役会の責務など上場企業のあるべき姿を定める「コーポレートガバナンス・コード」(企業統治原則)を策定。コードに基づき経営の透明性が高まれば、企業価値の向上にも寄与し、内外投資家の信頼を高めることを目指したものだ。「企業統治元年」ともいわれている時期に発覚した東芝の不祥事は、第三者の目で経営陣を監視する社外取締役が本来の機能を果たすことが容易ではないことを浮き彫りにした。
株主集団訴訟の可能性も
東芝の不正会計処理問題の代償は計り知れない。証券取引等監視委員会は今回の報告書を受けて、今後本格的な調査に入るが、東芝への行政処分として課徴金が課せられる可能性もある。東証も東芝を「特設注意市場銘柄」に指定する検討に入った。
波紋は株主や株式市場だけでなく社会的・国際的にも影響し、日本企業や日本市場への信頼を低下させることにもなりかねない。米国では不正発覚で東芝への市場の信認が低下し、株価急落で損失を受けたとする個人投資家が21日までに、損害賠償を求めて提訴した。投資家は東芝が連邦証券法に違反したとして、株価下落に伴う損失の賠償を求めている。今後、海外のみならず国内でも投資家らによる集団訴訟が提起される可能性もある。
日本企業にとって共通の戒めか
歴代トップ3人が刑事罰を受ける可能性も取りざたされる。過去にはライブドアの社長が53億円の会計不正で有罪判決を受けた。東芝は不正規模がその30倍に達する。ただライブドアなどに比べると、東芝の利益水増し金額は巨額ではあるが「悪質の度合いは小さい」とされ、刑事責任に問われる可能性は少ないとみる専門家もいる。
東芝にとり、市場や消費者から失った信頼回復や企業再生に費やすコストと時間は甚大だ。不祥事の再発防止策や、業績への悪化を受けた再建策、財務体質の強化に向けた保有資産の売却など、取り組まなければならない多くの課題が待ち受けている。今回の東芝の過ちはグローバルな事業展開を行っている日本企業にとって、共通の「戒め」として受け止める必要がある。
(ニッポンドットコム編集部)
バナー写真:東芝の不正会計問題で謝罪する(左手前から)室町正志会長、田中久雄社長ら=2015年7月21日、東京都港区の同社本社(時事)