AIIB 英独仏含め57カ国で発足へ=日米は参加見送り

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中国財務省は2015年4月15日、各国に参加を呼び掛けていた新しい国際開発金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に参加する創設メンバーが57カ国に決まったと発表した。先進7カ国(G7)から英、フランス、ドイツ、イタリアの4カ国が加わった。日本と米国は公正な組織運営を確保できないとして参加を見送った。

加盟国数、ADBに迫る

AIIBは習近平中国国家主席が13年10月に東南アジア諸国を訪問した際、インフラ(社会基盤)整備を支援する機関として創設を呼び掛けた。資本金は当初500億ドル程度とし、徐々に1000億ドル規模まで増やす。中国が最大の出資国として組織運営を主導する。6月末に参加国の出資比率などを定めた設立協定を結び、年内の運営開始を目指す。3月末が創設メンバー国を受け付ける締め切りだった。

資金需要の旺盛なアジア諸国にとってAIIBの設立は大歓迎。借り入れ先は多いに越したことはない。東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国などが早い段階で参加を表明したのは当然だ。意外だったのは3月12日に英国がG7で初めて参加に踏み切ったことだ。これを引き金にフランス、ドイツ、イタリアなども追随。サウジアラビアなどの中東諸国や、ロシア、ブラジル、インド、南アフリカを含めた新興国の代表格「BRICS5カ国」も勢ぞろい。創設メンバーの規模は最終的に、日米が主導するアジア開発銀行(ADB)の加盟国数(67カ国・地域)に迫った。

これまでアジア新興国の資金需要を中心的に応えてきたのは、1966年に設立されたADBだった。資本金は現在1628億ドル、昨年末の投融資残高は約843億ドル。1000人超の専門スタッフを抱え、インフラ整備などの大規模開発プロジェクトを支援している。AIIBとは事業が重なる。

アジア開発銀行(ADB)とアジアインフラ投資銀行(AIIB)

  ADB AIIB
本部 マニラ 北京
設立 1966年 2015年中(予定)
加盟国 67カ国・地域 57カ国(創設メンバー)
総裁 中尾武彦(日本) 金立群・元財務次官(中国、予想)
資本金 1628億ドル 1000億ドル(当初500億ドル)
主要出資国 日本(15.7%)米国(15.6%)中国(6.5%)インド(6.4%) 中国
事業目的 貧困削減、インフラ整備 インフラ整備

「ビジネス」を優先した欧州

ADB研究所によると、アジアのインフラ投資必要額は2010年から20年までの11年間で総額推計約8.3兆ドル(1ドル=120円換算で約996兆円)。年間平均では約7500億ドルだ。対象は電力、通信、港湾、鉄道、水道などあらゆる分野にまたがる。とりわけ、自国企業のインフラビジネス受注を後押しする欧州各国にとって、この市場は魅力だ。

欧州各国はAIIBの加盟国になることで、中国との関係を良好に保とうとの思惑も働いている。金融立国・英国は、人民元取引拠点の自国取り込みへの思惑がある。ドイツやフランスは自動車、イタリアは高級衣料品などで、中国は重要な貿易相手国だ。

不満のたまっていた中国

今や中国は国内総生産(GDP)では日本を抜いて世界第2位。国際通貨基金(IMF)の予測によると、購買力平価を基準にした中国の経済規模は2014年中に米国を抜き、世界1位に躍り出たとみられる。だが、世界的な国際金融機関では、中国はその経済力に見合うだけの発言権を得るまでには至っていない。

世界銀行は米国人、IMFは欧州出身者が組織のトップを独占している。日本は第2次世界大戦の敗戦国でありながら、ADBのトップの座をずっと握っている。中国としては面白いはずがない。G20財務省・中央銀行総裁会議は2010年、加盟国の経済力に応じてIMFに支払う出資割当額を変更する改革案で合意した。しかし、議決権の16.7%を保有し、事実上の拒否権を持つ米国の議会が批准を拒否し続けており、中国(現在3.8%、改革案6.1%)の発言権拡大を抑え込んでいるのが実態だ。

米国に対する公然たる挑戦

日本は参加判断を先送りした理由について、「AIIBの中がよく見えない」(麻生太郎副総裁・財務相)と説明している。ADBの場合、アジア域内8カ国と域外4カ国の合計12カ国で構成する理事会が個別の融資案件を審査しているが、AIIBは融資決定プロセスが不透明で、「国際標準」を満たしていないと問題視する。参加した場合、通常GDP比で決まる出資額は資本金が1000億ドルの場合、推定約30億ドル(3600億円)と巨額に上る。これだけの財政負担が妥当かの検討も必要だ。

米国も、議会多数派の共和党が参加に否定的なこともあり、「ADBや世銀などが持つ高い国際基準での管理運営でなければ、(インフラ事業に)民間投資家は参加できない」(リブキン米国務次官補=経済・商務担当)と消極的な立場だ。

中国は既に政府開発援助(ODA)の分野では、欧米先進国が主導する開発援助委員会(DAC)に加盟せずに、自国の価値観に基づいた独自の途上国援助を精力的に行っている。AIIBの設立は戦後国際金融秩序を主導してきた米国に対する公然たる挑戦であり、米国が参加する可能性は低いとの見方が支配的だ。

人材を送り込み、自国企業の受注狙う

インフラ事業で最も重要なのは案件の発掘・形成を行う優秀なスタッフの確保で、世銀は約3000人(常勤コンサルタント1187人、技術職895人など)ものスタッフを抱える。ADBの専門職員数は1074人(14年末)。それに比べ、AIIBは人材が足りないとの見方が専門家の間では支配的だ。

中国側は年内にプロジェクトの運営を開始したいとしており、当面は加盟国からの出向スタッフで業務を行わざるを得ない。英独仏など欧州の主要国はAIIBに加盟することで、組織に影響力を及ぼすことも可能だが、問題は他の欧州諸国。拠出金を払わされるだけで、中からガバナンスを変えることも、自国企業の受注も困難だからだ。中国政府に、AIIBのレジティマシー(正統性)を与えるだけで終わることになりかねない。

米中のパワーゲームの始まり

中国はADBの厳格な管理運営について、「官僚主義で煩雑。最良とは言えない」(楼継偉財政相)と異議を唱えている。「審査が厳しく、提出書類も多く、時間がかかる」との途上国側の不満を踏まえたものとみられる。

これに対して、中尾武彦ADB総裁は、「少しでも負担が減るよう手続き面は改善していくが、審査の基準線を下げるつもりはない。AIIBの登場によってADBの貸し付けが駆逐されることはない」と強調する。

AIIBはまだ発足していない。しかしインフラ事業を主要融資対象に掲げている限り、いずれプロジェクト案件形成の過程でADBと競合するような場面が出てくるのは避けられない。アジア諸国の開発投資をめぐり、日本を巻き込んだ米中のパワーゲーム(権力闘争)が新たに始まった。

文・長澤 孝昭(編集部)

タイトル写真:2014年10月24日、北京の人民大会堂で開かれたアジアインフラ投資銀行設立覚書の調印式で、スピーチに立つ中国の楼継偉財政相(代表撮影/ロイター/アフロ)

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