長岡と米ホノルル:“因縁”の両都市が戦後70年で追悼・交流事業(上)

政治・外交 社会

戦後70年の今年、太平洋戦争を戦った日米両国の間でさまざまな記念交流事業が行われる。政府間だけでなく、草の根の地方都市レベルでも計画されており、中でもハワイ・ホノルル市と姉妹都市交流を積み上げてきた新潟県長岡市が、ホノルルの真珠湾で終戦記念日の8月15日に白一色の花火「白菊」の打ち上げを計画している。長岡大花火は戦没者の追悼と平和への祈りを込めた象徴的なものとなりそうだ。

真珠湾の「不意討ち」と米軍の「無差別爆撃」

日米開戦の地となった真珠湾で1941年12月8日(現地時間では12月7日)に攻撃を受けたホノルル市と、終戦直前の45年8月1日に大規模空襲の標的となった長岡市。2つの都市をつなぐのは、長岡市出身で真珠湾攻撃を指揮した連合艦隊司令長官、山本五十六元帥の存在である。長岡の空襲は「山本ファクター」と呼ばれるなど、米軍にとって報復の色彩が濃いとの見方がある。

真珠湾攻撃では2400人以上、長岡空襲では1400人以上がそれぞれ犠牲になった。前者は宣戦布告が米国側に通知される前の「不意討ち(sneak attack)」、後者は田んぼを逃げまどう住民さえをも追い詰めていった「無差別爆撃」であると、それぞれ長い間、批判されてきた。

発端は森・長岡市長の日米市長会議出席

姉妹都市提携の調印所に署名したカーライル・ホノルル市長(左)と森・長岡市長(長岡市提供)

こうした重苦しい雰囲気を払しょくし、恩讐を超えて両都市間の「関係改善」を図る第一歩となったのが、森民夫・長岡市長のホノルル市訪問だった。森市長は全国市長会議の副会長として2007年8月、日米市長交流会議に出席し、当時のハンネマン・ホノルル市長と平和交流について話し合った。

森市長は、自分が山本五十六の故郷、長岡から来たことを告げ、山本が本来開戦に反対したものの、政府の決定により連合艦隊司令官という立場に置かれ、やむなく戦争を指揮したことなどを説明。その上で、平和をテーマとした両市間の交流を申し入れ、ハンネマン市長も快諾したという。

歴史的な「因縁」がある両都市が戦争の悲劇を乗り越え、世界平和をテーマに青少年交流や市民訪問団の派遣などを通じて相互理解を深め、日米友好の発展に貢献したいとの思いから、両都市は絆を強めていった。

両市の関係者や市民団体の相互訪問などを着実に積み重ね、2012年3月2日には森市長率いる長岡市の代表団がホノルル市を公式訪問、両都市は姉妹都市提携調印書に署名した。

2014年には市長と学生が真珠湾の追悼式典に

ホノルル市を訪問し、国立太平洋記念墓地(パンチボウル)で献花する長岡市の中学生ら=2015年1月(長岡市提供)

訪問2日目にはワイキキビーチ沖で、約1400発の長岡花火が打ち上げられた。花火打ち上げは前年にも計画されていたが、東日本大震災のため中止となっていた。長岡では信濃川の広大な河川敷を会場に毎年8月2、3の両日、長岡空襲の犠牲者を追悼するための大花火大会が行われ、正3尺玉を中心に大輪の花火が夜空を飾る。

この年、2012年夏の花火大会は、東日本大震災の犠牲者追悼がテーマとなった。長岡の花火は茨城県土浦市、秋田県大仙市とともに日本三大花火大会の一つと言われ、毎年100万人前後の観光客が訪れる一大イベントだ。1879年に始まったが、戦後は長岡空襲の犠牲者慰霊がテーマとなってきた。

ホノルルの中学校を訪問し、生徒と交流する長岡市の中学生=2015年1月(長岡市提供)

ホノルル市で2014年12月7日に行われた真珠湾攻撃犠牲者の追悼式典には、長岡市から森市長と大学生・高校生9人が出席、攻撃が始まった午前7時55分に黙とうを捧げた。日本の自治体首長で初めて米海軍から正式に招待された森市長は、攻撃を生き延びた退役軍人を含む約3000人が参列する式典の中で紹介された。

2015年2月には、ホノルル市の高校生4人が3日間、長岡を訪問、雪国の文化に触れるとともに、山本五十六記念館や長岡戦災資料館を見学したり、地元の青少年と交流し、平和について意見交換した。女子生徒の一人は地元テレビ局の取材に対し、山本五十六について「戦争を指揮した軍人としての悪いイメージしか持っていなかったが、当初は開戦に反対したことを知り、見方が変わってきた」と述べた。

70年の節目、未来志向の交流事業実施へ

8月15日に真珠湾で予定されている戦没者慰霊と平和祈願のための長岡花火の打ち上げは、戦後70年を画して長岡市とホノルル市が共催する友好交流事業の目玉だ。両市は交流事業を未来志向型と位置付け、長岡では7月30日から8月3日まで、ホノルルでは8月13日から17日まで、それぞれ5日間開催する。 

8月15日に真珠湾で打ち上げられる花火「白菊」(長岡市提供)

交流事業では花火打ち上げのほか、①青少年を相互に招き、平和交流サミット開催、②パールハーバー・ビジターセンターと長岡戦災資料館、山本五十六記念館の3館合同によるシンポジウム開催、③長岡造形大学とハワイ大学の交流④市民主体の文化・スポーツ交流――が計画されている。

森市長は終戦70年友好記念事業について、「節目の年にこれまでの交流の成果が花火のように花開くと思っています。未来を担う子どもたちにこの友好関係をどう伝えていくかがカギです。長岡花火を通じて平和の大切さ、未来への希望を伝えていく責任があります」と話している。

ホノルル市のカーク・コールドウェル市長は「この取り組みは『希望』です。両市の絆は大変強いものになりました。平和のために永久に続く絆です。真珠湾での長岡花火は歴史的な出来事になると思います。山本五十六の故郷である長岡と、真珠湾攻撃のあったホノルルがすばらしい友好を築いていることを世界に知らせることができます」と語った。

文・村上 直久(編集部)

バナー写真:ハワイのワイキキビーチ沖で、ホノルルフェスティバルに合わせて打ち上げられた長岡のフェニックス花火=2015年3月8日(長岡市提供)

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