白鵬が変えた大相撲の歴史—活躍する外国出身力士

文化

大鵬を超える最多の33回優勝

2015年1月の大相撲初場所で横綱・白鵬が全勝優勝し、33回目の優勝を果たした。これは昭和の大横綱・大鵬の史上最多優勝(32回)を超え、44年ぶりに日本の相撲史の記録を塗り替えるものだった。千秋楽で満員の東京・両国の国技館。観客は、モンゴル出身の大横綱に万雷の拍手を送った。

優勝賜杯を手にした白鵬は「大記録で数字の上では超えたが、精神的にはまだ越えていない」と語り、親交の深かった元大鵬の故・納谷幸喜さんへの敬意を忘れなかった。さらに、この大記録達成は「妻の強い支えのおかげです」と日本人の妻への感謝の言葉も述べると、館内から再び歓声が上がった。会場では母国から来た両親も見守っていた。

歴代力士の優勝回数

白鵬* 33 29歳
大鵬 32 30歳
千代の富士 31 35歳
朝青龍 25 29歳
北の湖 24 31歳
貴乃花 22 28歳

*は現役、年齢は達成当時 

強い力士を求めるファン心理は不変

大相撲の歴史は長い。その起源は江戸期(1600年代後半)に江戸市中の神社の境内などで行われた奉納相撲にさかのぼる。現在は文部科学省から認定された財団法人日本相撲協会が運営・興行している。

近年では戦後の昭和期(1960~70年代)に栃錦、初代・若乃花の両横綱による「栃若時代」、大鵬と柏戸の「柏鵬時代」を迎え、相撲ファンが拡大。海外巡業なども行われ、米国ハワイ巡業中の1964年には、戦後初の外国出身力士となる高見山(最高位・関脇)がスカウトされた。平成期(1990年代)には、貴乃花と若乃花の兄弟による“若貴ブーム”で盛り上がるなど、相撲人気は時代の変化や雰囲気とともに浮沈を繰り返してきた。

相撲ファンが渇望するのは、強い力士同士がぶつかり合う白熱した取り組みである。しかし、強い日本人力士が育たなくなったと言われる。その背景には、慢性的な新弟子不足も指摘される。ハングリースポーツでもある相撲を志す青少年が減ったことは否めない。それを補完する形で外国出身力士の存在感が増している。今や個性のある外国人力士がいなくなれば、相撲の魅力が半減しかねない状況ですらある。

幕内の外国出身力士(2015年初場所)

白鵬(29) 横綱 モンゴル 宮城野部屋
鶴竜(29) 横綱 モンゴル 井筒部屋
日馬富士(30) 横綱 モンゴル 伊勢ヶ浜部屋
碧山(28) 関脇 ブルガリア 春日野部屋
逸ノ城(21) 関脇 モンゴル 湊部屋
栃ノ心(27) 前頭1 グルジア 春日野部屋
照ノ富士(23) 前頭2 モンゴル 伊勢ヶ浜部屋
魁聖(28) 前頭5 ブラジル 友綱部屋
旭天鵬(40) 前頭7 モンゴル 友綱部屋
玉鷲(30) 前頭9 モンゴル 片男波部屋
蒼国来(31) 前頭10 中国 荒汐部屋
旭秀鵬(26) 前頭12 モンゴル 友綱部屋
荒鷲(28) 前頭12 モンゴル 峰崎部屋
大砂嵐(22) 前頭13 エジプト 大嶽部屋
時天空(35) 前頭13 モンゴル 時津風部屋
鏡桜(26) 前頭15 モンゴル 鏡山部屋

カッコ内は年齢

幕内では3人に1人が外国出身力士

2015年初場所で見ると、東西に分かれた幕内力士42人のうち、16人(約38%)が外国出身力士だった。3人に1人が外国出身者だ。上位陣は白鵬、鶴竜、日馬富士の3横綱がモンゴル出身。大関陣には稀勢の里、琴奨菊ら日本人力士もいるが、関脇にはブルガリア出身の碧山、モンゴル出身の逸ノ城が上位をうかがう。さらに、前頭1枚目にはグルジア出身の栃ノ心ほかが続き、中国出身の蒼国来や初のエジプト出身力士の大砂嵐もいる。

日本相撲協会のデータ(2014年5月時点)によると、戦後の歴代外国人力士の数は14カ国・158人にのぼる。出身国・地域別に見ると、1位はモンゴルの55人、2 位は米国の31人、3位はブラジルの16人、4位は韓国および中国の各12人が続く。以下、トンガ8人、 ロシア6人、 グルジア、フィリピン4人、アルゼンチン、英国、エストニア、サモア、ブルガリアがそれぞれ2人で、出身国も多彩である。

相撲界にもグローバル化の流れ

相撲界に国際化の波が押し寄せて久しい。増えすぎる外国人出身力士の数を抑えるため、相撲界には外国人枠も存在する。かつては、1部屋2人以内、全体で40人以内の規定だったが、2002年に40人枠が撤廃され、1部屋1人に変更された(変更時点で1部屋2人いた場合は可)。2010年2月に「外国人力士枠」が「外国出身力士枠」と変更され、外国出身力士は帰化者を含め1部屋1人のみとされた。

外国出身力士が活躍している現状について、「外国人力士が強くなり過ぎ、 相撲を見なくなる人が多くなった。外国人力士を排除しては…」といった声も聞かれる。また「相撲界にもウインブルドン現象か」といった見方もある。しかし、土俵に登場する外国出身力士の多彩な顔ぶれは、開かれた大相撲を国際的にPRするうえで決してマイナスではない。五輪種目にもなった柔道が“世界のスポーツ”に発展した例もある。

今や国境を越えたグローバル化の時代。日本のスポーツ界には各国からやってきたアスリートたちが企業や大学・高校でも活躍している。大相撲とて例外ではないはずだ。日本に訪れた外国人旅行者たちが、大相撲の興行を東京や大阪、名古屋、福岡などで大勢見物するようになれば、相撲や日本の伝統文化への国際理解がさらに広がる一助になるのではないか。観光立国をめざす日本が取り組む方向にも沿ったものだ。

白鵬のライバル登場にも期待

今年3月で30歳を迎える白鵬だが、さらに優勝回数を更新していく可能性がある。白鵬時代はまだ続きそうだが、優勝パレードに向かう際、はかまに着替えながら「1人で相撲はできません。強い力士、ライバルがいるからこそ…」と笑顔でつぶやいた(1月26日付朝日新聞)という。無敵の横綱を脅かすライバルの登場を相撲ファンのみならず、白鵬自身が待っているようだ。

文・原田 和義(編集部)

タイトル写真:初場所8日目、白鵬(右)は安美錦を引き落としで下し、勝ち越しを決める=2015年1月18日、東京・両国国技館(時事)

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